二階堂千鶴
私の部屋に、優梨愛と私、二人きり。
二階堂千鶴
初めの頃は違和感ばかりだったけれど、この生活にもすっかり慣れたものね。
二階堂千鶴
夢見る居候娘は、もうすっかり家族の様な存在だ。
二階堂千鶴
私も妹ができたみたいで、本当に嬉しく思う。
ジュリア
「なあ、千鶴」
二階堂千鶴
「どうかしたの?」
ジュリア
「あたしの…名前を考えてくれないか?」
二階堂千鶴
「あなたの名前を…?」
二階堂千鶴
「あなたには寺川優梨愛っていう立派な名前があるじゃない」
ジュリア
「いや、そうじゃないんだ」
二階堂千鶴
「そうじゃないってどういうこと?」
ジュリア
「あたしさ、スカウトされたんだ」
二階堂千鶴
少し照れ臭そうに、優梨愛は私にそう打ち明ける。
二階堂千鶴
その言葉を聞いて、それが意味しているものを私はなんとなく感じ取っていた。
二階堂千鶴
同時に、私の身体を一抹の寂しさが襲う。けど、そんなことを顔に出しはしない。
二階堂千鶴
「スカウト!?それほんとなの!?」
ジュリア
「ああ、ほんとうなんだ!嘘みたいだろ!?」
二階堂千鶴
「すごいじゃない!おめでとう!!お祝いしなくちゃいけないわね!!!」
二階堂千鶴
「ほんの気持ち程度で、たいしたものは用意できないけれどね…」
ジュリア
「気持ちだけでも十分嬉しいよ」
ジュリア
「だからさ、餞別だと思って、名前を付けてくれないか?」
ジュリア
「あたしが夢の続きを見ていける名前を…」
二階堂千鶴
「いいわよ」
二階堂千鶴
「ところで、名前をつけてあげる前に、聞きたい事があるんだけれども」
ジュリア
「なんだ?」
二階堂千鶴
「どこの事務所からスカウトされたの?」
二階堂千鶴
彼女は鞄の中から、大切そうにしまっていた名刺を取り出す。
ジュリア
「これ…」
二階堂千鶴
「765プロダクション…」
ジュリア
「知ってるか?」
二階堂千鶴
「ああ、知っているわよ。寧ろ、優梨愛は知らないの?」
ジュリア
「わるい、そういうの疎くて…」
二階堂千鶴
「疎いのに、デビューする気だったのね…」
ジュリア
「それで、どう思う?」
二階堂千鶴
「いいところだと思うわよ」
二階堂千鶴
「それに…」
ジュリア
「それに?」
二階堂千鶴
「いえ、やっぱりなんでもないわ」
二階堂千鶴
「忘れてちょうだい」
ジュリア
「えー、なんだそれ、忘れてって言われてもな…」
二階堂千鶴
「それじゃあ命名してあげないわよ?」
ジュリア
「ちょ、まったまった、わかった。忘れるって!!」
二階堂千鶴
「いい子ね」
ジュリア
「それで…あたしの名前は?」
二階堂千鶴
「急かさないの、ちゃんと考えたから」
二階堂千鶴
深く呼吸を吸い込んで、間をあける。そうすることで、気持ちを整理する時間をつくっていた。
二階堂千鶴
だって、これが別れだということを、私はわかっているもの。
二階堂千鶴
「ジュリア」
二階堂千鶴
「あなたの新しい名前よ」
二階堂千鶴
「胸を張って、夢の続きを見てきなさい!」
(台詞数: 50)