二階堂千鶴
私は寂れた商店街を抜け出し…
二階堂千鶴
大きなビルが立ち並ぶ、コンクリートジャングルの中に来ている。
二階堂千鶴
配達を頼まれたからよ。
二階堂千鶴
人混みの中を忙しそうに行きかう人々を見つめながら、先日の事を思い返す。
二階堂千鶴
あの日から、晴れて同居人となった居候娘の優梨愛。
二階堂千鶴
彼女は今日もギターを片手に歌を歌っているでしょうね。
二階堂千鶴
彼女は夢を掴もうと必死に追いかけている。
二階堂千鶴
彼女は夢に誠心誠意、挑んでいる。
二階堂千鶴
以前は遠くから、まるで保護者のような気持ちで見守る立場だったけれど…
二階堂千鶴
傍で時間を共有するようになってからこそ見えてくるものもある。
二階堂千鶴
『その綺麗な目をしっかり開いて、あなたの夢、追いかけなさい』
二階堂千鶴
今はあの言葉を言った私自身を恥かしく思う。
二階堂千鶴
何故なら私は彼女に比べちっぽけな存在でしかないからだ。
二階堂千鶴
あの日、優梨愛にあんな説教を垂れてみたものの…
二階堂千鶴
よくよく冷静になって考えてみれば…
二階堂千鶴
しみったれた精肉店から出ることなく、本当にやりたいことも見出せない…
二階堂千鶴
そんな夢のない私の口からあんな言葉が出たところで…
二階堂千鶴
説得力皆無なわけでありまして、彼女の心には到底、響くはずなどない。
二階堂千鶴
それに気付いてしまったのよ。
二階堂千鶴
「夢ね…」
二階堂千鶴
私は彼女を羨ましく思う。
二階堂千鶴
あの歳で既にやりたいことがあり。
二階堂千鶴
世間の荒波に揉まれつつも、その夢に全力で向かっているからだ。
二階堂千鶴
挫折だってあるだろうに、それでもあの子はカサブタだらけの膝で立ち向かっている。
二階堂千鶴
それに比べ私ときたら、あの歳の時からずっと、精肉店の看板娘でしかない。
二階堂千鶴
変わらないんだもの。
二階堂千鶴
私はこの人生に見事にフィットして、その生活にすっかり慣れて染まってしまっている。
二階堂千鶴
だからこそ、あの夢見る少女が眩しく見える。
二階堂千鶴
彼女のいない、今の視界はより霞んで見えるわね。
二階堂千鶴
どうすれば、ちゃんと見えるようになるのかしら…
二階堂千鶴
私が本当にやりたいことと向き合えばいいの?
二階堂千鶴
でも、それがわからないんだもの…
二階堂千鶴
夢って難しいわね。
二階堂千鶴
雑居ビルの立ち並ぶコンクリートジャングル。
二階堂千鶴
それをまるで渡り鳥の様に渡り歩きながら、思考を巡らせる。
二階堂千鶴
「夢…」
二階堂千鶴
こんなにも『夢』について考えさせられるのは、悩むのははじめてかもしれない。
二階堂千鶴
でも、きっと答えは頭を幾ら捻ったって出すことはできないでしょうね。
二階堂千鶴
今まで紡いできた人生の中で見つけられなかったものが…
二階堂千鶴
今、小一時間悩んでみたところで導き出せるはずがないもの…
二階堂千鶴
「あっ、これ…」
二階堂千鶴
雑居ビルの一角に張り出されたポスターが、ふと私の視界に入る。
二階堂千鶴
『765Pで仲間と一緒に夢を見ませんか?』
二階堂千鶴
見出しには大きくそう書かれていた。
二階堂千鶴
俄然気になってしまったので内容をじっくり読んでみる。
二階堂千鶴
どうやら、芸能プロダクションでアイドルのオーディションが行われるようね。
二階堂千鶴
「夢を見ませんか?ですって…」
二階堂千鶴
案外オーディションを受けてみれば何かが変わるかもしれないわね。
二階堂千鶴
やりたいことも、少しは見えてくるかもしれない。
二階堂千鶴
「これに、賭けてみようかしら…」
(台詞数: 50)