二階堂千鶴
…いらしゃいませ。
二階堂千鶴
まずは、再びのご来訪に、心からの感謝を。
二階堂千鶴
さあ、お手をどうぞ。席まで案内させていただきますわね。
二階堂千鶴
今日は特に暗くなっております。どうか足元にお気を付けくださいまし。
二階堂千鶴
わずかな明かりと掌の温もりを頼りに、お客様を、今日のために誂えた席へ。
二階堂千鶴
机の上には、ペアのティーカップ、ポット、ガラスのフラスコなど、準備が整っています。
二階堂千鶴
…お客様は、その中でも、ティーカップに目を惹きつけられた様子で。
二階堂千鶴
素敵なティーカップでしょう?わたくしの、一番のお気に入りで…宝物です。
二階堂千鶴
使うのであれば、是非ともこのような場で、と思っていましたの。
二階堂千鶴
…それでは、始めさせていただきますわね。わたくしの心尽くし、お気に召せば良いのですが。
二階堂千鶴
最初は、作法と手順に従って、紅茶を準備いたします。
二階堂千鶴
その合間に、本日の趣向である角砂糖と白銀のスプーン、フラスコを手に取りました。
二階堂千鶴
フラスコ瓶の底には、琥珀色の液体がわずかにたゆたっています。
二階堂千鶴
マーテルのVSOP、コニャックの中でも特に洗練されたそれを、じわりと温めたもの。
二階堂千鶴
コルク栓を抜いて、瓶を慎重に傾けながら、一滴一滴。
二階堂千鶴
まるで、とん、とんと叩くように、角砂糖へゆっくりとしみ込ませていきます。
二階堂千鶴
角砂糖を乗せたスプーンを、ティーカップに橋を渡すように掛ければ、準備は出来上がり。
二階堂千鶴
…さて。今、キャンドルをお持ちいたします。少々お待ちください。
二階堂千鶴
少し手間ですが、マッチは使えません。燐の匂いが鼻をついて、いかにも興醒めですもの。
二階堂千鶴
燭台のキャンドルから、手に持ったキャンドルへ。
二階堂千鶴
火を貰うと、ほんのりと、蜜蝋の甘やかな匂いが漂いました。
二階堂千鶴
角砂糖に赤い火を近付け、その火が移るまで数秒。
二階堂千鶴
ただ一つ、その役目を終えたキャンドルの火を吹き消すと、辺りは薄闇に包まれます。
二階堂千鶴
…いいえ。その中で。
二階堂千鶴
いつしか、キャンドルがもたらした赤い火は、淡くそれなのに鮮やかな、青い火に。
二階堂千鶴
そして、まるでほどけるように、ふわっとした芳香が広がって。
二階堂千鶴
このカフェは、小さな幻想郷へと変わります。
二階堂千鶴
それも、本当に幻のように少しの間。青い火は、小さく揺らめき、消えてしまいました。
二階堂千鶴
スプーンの上にあるのは、かつての面影を無くしながら、その精髄を取り込んだ残滓。
二階堂千鶴
それを落とし、軽くかき混ぜれば、お茶の爽やかさと混じり合い、また一段と香り立ちます。
二階堂千鶴
…どうぞ。ティー・ロワイヤルでございます。王侯貴族のひと時を、貴方へ。
二階堂千鶴
その高貴な香りを楽しみながら、ご賞味くださいませ。
二階堂千鶴
少しばかり砂糖が多いので、甘く感じるかもしれませんが…
二階堂千鶴
…温かくて甘いものは、体にも心にも優しいと思いますので。
二階堂千鶴
…。
二階堂千鶴
わたくしにできるのは、貴方の安らぎのために、心を尽くすだけ…。
二階堂千鶴
疲れ果てた貴方を救う、魔法の言葉などはありません。あってはいけません。
二階堂千鶴
悲しみも苦しみも、楽しみや喜びと変わらず貴方のかけがえのない一つなのですから…。
二階堂千鶴
そして、ひと時憂さを忘れても、また心の傷が開くことも、あるかと思います。
二階堂千鶴
それに堪え難くなったときは、またおいでください。
二階堂千鶴
貴方を救うことはできなくても、貴方に寄り添うことは、できます。
二階堂千鶴
傍に居て、見ています。
二階堂千鶴
貴方の姿に、胸を痛めながら。
二階堂千鶴
それでも、その苦しみや悲しみも、いずれは貴方の糧に、良い流れとなると信じて。
二階堂千鶴
祈りながら、待ち続けます。
二階堂千鶴
…そして、願わくば。
二階堂千鶴
いつか、貴方が自分なりの答えを見つけ、また歩みを進めるようになったとき。
二階堂千鶴
今度は、貴方の喜びと楽しみをもって、わたくしに寄り添っていただけるなら…
二階堂千鶴
それは、わたくしにとっても、何より…
二階堂千鶴
…嬉しい。
(台詞数: 50)