二階堂千鶴
私は、家出少女を自分の部屋へあげていた。
二階堂千鶴
なにもない、寂れた商店街にはお似合いな閑散とした、粗末な部屋だけれども…
二階堂千鶴
行くあてのないものが、雨風を凌ぐには贅沢過ぎる部屋。
二階堂千鶴
家出娘は、私の渡したジャージに着替えを済ませ、頭からタオルを被り、髪を乾かしている。
二階堂千鶴
「他人の部屋に上げてもらっているんですから、名前くらい名乗るのが礼儀ではなくて?」
二階堂千鶴
私の問いかけに、彼女のその手が止まる。
ジュリア
「そ、それは…」
二階堂千鶴
不思議に思い、口ごもる彼女の顔を私が覗きこむと…
二階堂千鶴
彼女は顔をトマトの様に真っ赤にして、顔全体を震わせていた。
二階堂千鶴
「どうかしたの?」
ジュリア
「は、恥かしいんだ…」
二階堂千鶴
「恥ずかしい?」
ジュリア
「あたしの名前…よく、揶揄われたりするからっ!」
二階堂千鶴
「なによそれ、安心しなさい、私は揶揄ったりなんかしないわよ」
ジュリア
「絶対に…笑うなよ?」
二階堂千鶴
「ええ、約束するわ」
ジュリア
「寺川優梨愛」
二階堂千鶴
仏教とキリスト教を組み合わせたみたいな変わった名前ね。
ジュリア
「今、仏教とキリスト教を組み合わせたみたいな変わった名前って思っただろ!?」
二階堂千鶴
「そ、そんなことありませんわよっ!!」
二階堂千鶴
「ご両親の想いがつまった、素敵な名前だと思いましたわよ」
ジュリア
「ほんとか?」
二階堂千鶴
「ええ、天地神妙に誓って本当よ」
ジュリア
「それならいいんだ…」
ジュリア
「あたしもあんたも名前を知らない」
二階堂千鶴
「ああ、そういえば、そうだったわね…」
二階堂千鶴
「私、二階堂千鶴よ」
二階堂千鶴
「はじめまして、よろしくね、優梨愛さん」
二階堂千鶴
私はそう言ってニッコリして、上目使いをする彼女に手を差し出す。
ジュリア
「こちらこそ、よろしくな、千鶴さん」
ジュリア
「別に、あたしのこと、さん付けで呼ばなくていいからな…」
ジュリア
「千鶴さんのほうが、年上なんだし…」
二階堂千鶴
私の手を取った彼女は、口を尖らせて、恥かしそうに、口からそう漏らす。
二階堂千鶴
「あら、それじゃお言葉に甘えて…」
二階堂千鶴
「優梨愛も、私のことをさん付けなんてしなくていいのよ」
二階堂千鶴
「今日からここが、貴方の居場所になるんですからね」
ジュリア
「え?」
二階堂千鶴
「帰る場所、ないんでしょ?」
ジュリア
「……」
二階堂千鶴
「だから、暫くここを拠り所にしてもいいわよ」
二階堂千鶴
「まあ、その代わり、お店の手伝いくらい、少しはしてもらうけどね」
二階堂千鶴
「ただ、それ以外の時間は好きな事をしていいわよ」
二階堂千鶴
「たとえば、そのギターを持って歌を歌いにいく、とかね」
ジュリア
「千鶴…」
二階堂千鶴
「夢、なんでしょ?」
二階堂千鶴
「一度始めたこと、やるからには全力でやりなさい」
二階堂千鶴
「その綺麗な目をしっかり開いて、あなたの夢、追いかけなさい」
二階堂千鶴
その日から暫くの間、家出娘は、居候娘になった。
(台詞数: 48)