周防桃子
ジュリアさんとの対決は、桃子の勝ちで終わった。
周防桃子
「このみさん、風花さん。ありがとね。」
周防桃子
桃子に付き合ってくれた二人に、あらためてお礼を言う。
周防桃子
このみさんはおどすようなことを言っていたけど、二人は想像以上に、桃子をサポートしてくれた。
周防桃子
歌の弱いところを、それぞれが自分の判断でカバーしてくれたから、本当に助けられたって思う。
周防桃子
おかげで、ジュリアさんが何度も場をひっくり返そうとしても、最後までなんとかなったもの。
周防桃子
でも、桃子のお礼に返ってきたのは、どういたしましてとか、そういうものではなく。
豊川風花
「…桃子ちゃん。本当に、これで良かったの?」
周防桃子
桃子を心配する、風花さんの声だった。
周防桃子
「最初に言ったでしょ。ジュリアさんに勝つには、これしかないって。」
周防桃子
桃子が二人に協力をお願いするときに言ったことを、もう一度くり返した。
周防桃子
ずるいとか正々堂々じゃないとか言われるかもしれないけど、それも仕方ないと割り切っている。
周防桃子
でも、二人が言いたいのは、そういうことじゃなかったみたいで。
馬場このみ
「あのね、桃子ちゃん。」
馬場このみ
「私たちは、桃子ちゃんの勝ちたいって気持ちに共感したから、協力したわ。」
馬場このみ
「だからこそ、聞いておきたいの。貴音ちゃんとの戦いは、優勝より価値があるものなのかって。」
周防桃子
このみさんの表情は、きびしかった。ヘタな言いわけなんて、許さないってくらいに。
馬場このみ
「もう二度とこんなチャンスはないかもしれないし、あったとしても、次は勝てるかわからない。」
馬場このみ
「それなのに、やっとの思いで手に入れた一勝を、貴音ちゃん一人の為に使おうとしている。」
馬場このみ
「はっきり言って、おかしいのよ。まっとうじゃないわ。」
周防桃子
そう言い切るこのみさんに続いて、今度は風花さんが。
豊川風花
「私は、桃子ちゃんはもう少し自分を大事にした方がいいって思うの。」
豊川風花
「桃子ちゃんが、貴音ちゃんに追いつきたい、対等でいたいって気持ちは、わかるつもりよ。」
豊川風花
「でも、その為に自分を犠牲にするようなことをしたら、貴音ちゃんだって嬉しくないと思うわ。」
周防桃子
…二人は、桃子のことを心の底から心配している。それはわかる。
周防桃子
だけど、やっぱり二人には見えていないもの、わからないものが、桃子と貴音さんの間にはあった。
周防桃子
それが少しでも伝わってほしいと、桃子は考えながら、自分の想いを言葉にしようとしてみた。
周防桃子
「…そうだね。貴音さんは桃子がムリしてるのを見て、悲しんでる。」
周防桃子
「でもね。そんな桃子を受け入れてくれるのも、貴音さんなんだよ。」
周防桃子
悲しみながら、それでも桃子の意志を尊重して、本気で向かってきてくれる。
周防桃子
「そんな貴音さんだから、桃子に見せてくれると思うんだ。」
豊川風花
「…何を?」
周防桃子
風花さんの問いかけに、桃子は自信をもって答えた。
周防桃子
「わからない。」
周防桃子
「だけど、きっと今まで見たことのないような、すごいものを!」
周防桃子
それだけは、ぜったいにまちがいないと、そう思ってる。
周防桃子
「…優勝してトップに立つって、とても気もちいいだろうね。桃子も、何度も想像したよ。」
周防桃子
「想像できちゃう…。でもね、貴音さんはちがう。あの人のことは、想像できないんだ。」
周防桃子
ぶるっと体がふるえた。少しのこわさと、それ以上の、ワクワクするうれしさに。
周防桃子
「桃子はね、すっごく期待してる。貴音さんが桃子にどんなものを見せてくれるかって。」
周防桃子
「そして、桃子の全力とぶつかったら、どんな光景が見えて、どんな世界が生まれるかって。」
周防桃子
だから、桃子は優勝よりも、何よりも…。
周防桃子
「たしかに桃子は、貴音さんと同じステージに立つって約束した。でも、それだけじゃないよ。」
周防桃子
「今では、それが桃子の『夢』。桃子が本当にやりたいって思ってることになったんだよ。」
周防桃子
…桃子の想いのたけをぶつけてみて。二人がどれだけ理解してくれたかは、わからない。
周防桃子
だけど、だまって桃子の言葉を聞いていた二人のきびしい表情は、少しやわらいだようだった。
馬場このみ
「…正直に言って、私たちはまだ桃子ちゃんの言ってること、納得できてない部分もあるわ。」
馬場このみ
「だから、ここから見させてもらうわね。桃子ちゃんが期待している、その『何か』を。」
周防桃子
そう言って送り出してくれる二人に、桃子は笑いながら、言った。
周防桃子
「…うん。見ててね。」
(台詞数: 50)