馬場このみ 29歳 プロデューサー14話
BGM
Decided
脚本家
nmcA
投稿日時
2017-06-12 00:18:09

脚本家コメント
第1章「名ばかりヴィンテージワイン」
【ここまでのお話】
 武道館ライブ後、仮眠をとっていたこのみは5年後の765プロに心だけタイムスリップしていた。自らの身体の変化に戸惑うものの、プロデューサーとして活動することを決意する。
 百合子から「このみは重大な使命を負っている」と説明されたこのみは、莉緒に自らの引退が原因でひなたと育が悩んでいるのではないかと問いただすが、このみの勘違いで終わる。
 ほっとしたこのみだったが、莉緒からひなたが何か悩んでいるらしいという話を聞く。
追伸
このみさん、誕生日おめでとう!

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馬場このみ
水の流れる音がリビングに響く。私は慌てて水を止めた。
馬場このみ
お陰でコップから水が溢れ出てしまい、両手の甲が水でしっとりとしている。
馬場このみ
もしやさっきの音で、起こしてしまったのではないかと寝室に目をやった。
馬場このみ
ドアを少し開け、耳をそば立てる。……大丈夫、中からはちゃんと莉緒ちゃんの寝息が聞こえる。
馬場このみ
ホッとしてキッチンに戻り、コップの水をグッと飲み干す。
馬場このみ
身体の酔いが少し納まった気がした。コップを置き、ふと手の甲を見た。
馬場このみ
先ほど溢れた水が、はじかれることなく肌の隙間を縫ってどんどんと吸収されていく。
馬場このみ
まるで、砂場に落とした水のようにどんどんと……
馬場このみ
……初めは、どうしてこうなったの、と思っていた。
馬場このみ
肌のうるおいは無くなっているし、膝も痛む。おまけに酒に弱くなっているときた。
馬場このみ
24歳の私が心がけていたケアは無駄だったの!?と一言いいたい気分だった。
馬場このみ
まぁ、ケアの結果がこうだ、と言われたらそれはそれでショックなのだけど。
馬場このみ
私は濡れた手で自分の頬をそっとなでた。肌に水がしみこんでいくのを感じる。
馬場このみ
……でも、今の私ならこの身体に納得できる。
馬場このみ
この一か月、スピカを中心にみんなのプロデュースを続けてきた。
馬場このみ
休日は不規則、ご飯の時間もまちまち、机に書類はたまる一方。
馬場このみ
帰宅はできても日によっては午前様。事務所の仮眠室に何度お世話になったことか。
馬場このみ
そう考えると、この身体は当然の結果だった。
馬場このみ
むしろ、この状態でいれていることは出来すぎとも思う。
馬場このみ
……もし、29歳の私に会えるのなら謝りたい。
馬場このみ
この顔を見て、泣き崩れてごめんなさいって。
馬場このみ
そして、感謝したい。ありがとうって。
馬場このみ
紗代子ちゃんも百合子ちゃんも成功は私のおかげだと褒めてくれた。
馬場このみ
でも、私は違うと思う。
馬場このみ
私だけじゃ成功できなかった。ううん、スタートラインにもきっと立てなかった。
馬場このみ
29歳の私がまとめてくれたデータと、これまでのスピカへの指導。それがあってこその成功だ。
馬場このみ
だから、感謝の言葉を伝えたい。
馬場このみ
担当アイドルを大事に思って身を粉にして駆けまわってくれた、29歳の私へ、ありがとうを。
馬場このみ
私はコップにそっと水を注ぎ直した。
馬場このみ
そして、誰もいないリビングに向かって一人で乾杯をし、水を飲み干した。
馬場このみ
シンクにコップを置き、グッと伸びをする。
馬場このみ
時計を見ると3時を回っている。時間に気付くと自然と大きなあくびが出た。
馬場このみ
早く寝直さないと、仕事に響く。遅刻して何度も律子ちゃんに怒られていては立つ瀬がない。
馬場このみ
ひなたちゃんのことも聞いておきたいし、明日からも間違いなく大変だ。
馬場このみ
よしっ、と気合を入れたところで妙な違和感を感じた。
馬場このみ
なんだろうと考え、壁のカレンダーが目に入ったとき、違和感の正体に気付き苦笑いしてしまった。
馬場このみ
……元の時代に戻る方法、見つかっていないじゃない。
馬場このみ
まぁ、でも、今はこの時代のやるべきことを片付けないとね。
馬場このみ
寝室に戻りアラームをセットして、布団に潜り込む。
馬場このみ
確かに私は24歳の現役アイドルだ。
馬場このみ
でも、今、この時代では違う、
馬場このみ
だって、私は765プロ所属のプロデューサーなのだから。

(台詞数: 42)