馬場このみ 29歳 プロデューサー 9話
BGM
bitter sweet
脚本家
nmcA
投稿日時
2017-05-10 21:45:47

脚本家コメント
第1章「名ばかりヴィンテージワイン」
【ここまでのお話】
 武道館ライブ後、仮眠をとっていたこのみは5年後の765プロに心だけタイムスリップしていた。自らの身体の変化に戸惑うものの、プロデューサーとして活動することを決意する。
 勢いを落としている紗代子と百合子とのユニット『スピカ』の次のフェスを成功させるため、策を練るこのみは亜利沙に助けを求めるものの打開策は思いつかなかった。

コメントを残す
豊川風花
「きゃっ!あ、足が抜け……っとっと……み、瑞希ちゃんっ!」
真壁瑞希
「ふ、風花さん、捕まらないでください。私まで……あっ」
馬場このみ
花火に似た水しぶきの音が透き通った青空に向かって2発大きく打ち上がった。
馬場このみ
レンコン農家へのただの取材じゃ盛り上がらないもの。これぐらいのハプニングがあって丁度いい。
豊川風花
「うぅ~、ごめんなさい、瑞希ちゃん。巻き込んじゃって」
真壁瑞希
「気にしないでください。番組としてはよい絵が取れたはずです」
馬場このみ
「そうよ。2人とも5年経ってバラエティ番組への適応力が上がったんじゃない?」
馬場このみ
泥だらけのレンコン収穫体験の撮影を終え、すっかり着替え終えた2人にお茶を渡す。
豊川風花
「これも主演映画の宣伝のためです。せっかくの清楚な役、皆さんに知って欲しいですから」
真壁瑞希
「私もナレーションのお仕事がもっと欲しいですから。では、いってきます」
馬場このみ
2人はお茶を飲み終えるとすぐに農家さん夫婦との打ち合わせへと駆けていった。
馬場このみ
適応力が上がったというよりも2人ともやりたいことがやれて充実しているという感じだ。
馬場このみ
『いやぁ、馬場ちゃんのところに頼んで正解だったよ~。ナイスナイス~』
馬場このみ
背後から急にディレクターが声が飛んできた。持っていたタンブラーをあわてて握り直す。
馬場このみ
『気難しい旦那さんだって聞いてたからさ~、インタビューが上手くいくか心配だったんだよねぇ』
馬場このみ
打ち合わせを見てみると、瑞希ちゃんと風花ちゃんのおかげで農家夫婦の口の滑りは良いみたいだ。
馬場このみ
『馬場ちゃんが推した2人ならって思って任せたけどグッジョブだよ。ホントありがとちゃ~ん!』
馬場このみ
ディレクターはそう言って私の頭をポンと叩いて音響さんのところへ歩いていった。
馬場このみ
私は叩かれた部分をそっとさすって、タンブラーに口を付ける。
馬場このみ
スムージーで今の気持ちを飲み込もうとしたが、一度湧いた感情はそう簡単に落ち着いてくれない。
馬場このみ
担当アイドルの瑞希ちゃんと、セルフプロデュース組とはいえ同じ事務所の風花ちゃん。
馬場このみ
この2人を褒められて嬉しくないわけがない。でも、彼女らの活躍の手助けをしたのは29歳の私。
馬場このみ
この事実は、私がこの時代の人間ではないことをはっきりとさせているようで、寂しかった。
豊川風花
「……大丈夫ですか?浮かない顔をしていますけど。ディレクターに何か言われましたか?」
馬場このみ
気付けば2人は打ち合わせを終え、心配そうに私の顔を覗いていた。
馬場このみ
「ううん、それとは関係ないわ。だって、2人が凄い!ってほめちぎっていたもの!」
真壁瑞希
「陰でほめられると照れます。それは……レンコンスムージーですか?」
馬場このみ
瑞希ちゃんが手元のタンブラーをのぞきこむ。飲む?と言って2人に勧めた。
豊川風花
「わっ、美味しい!私、ペパーミント派なんですけど、ハチミツもいいですね!」
真壁瑞希
「レンコンスムージーと言えば、さっき教えてもらったブームを作った話が大変面白かったですね」
豊川風花
「窮すれば通ずっていうか逆転の発想というか。さすがレンコンブームを作った人って思ったわ」
真壁瑞希
「私はギャンブルだと思いました。少しワクワクしました」
馬場このみ
「ちょっと、ちょっと、2人で盛り上がらないでお姉さんにも聞かせなさい!」
真壁瑞希
「まぁまぁ、慌てずに。実はですね……
真壁瑞希
「まぁまぁ、慌てずに。実はですね……と、いうわけなんです」
豊川風花
「すごいですよね。やっぱりブームを作る人って積極性が必要なのかしら」
真壁瑞希
「……? プロデューサー、どうかしましたか?」
豊川風花
「口が開いたままですよ?」
馬場このみ
そりゃあ、そうだ。口を開けずにどうしろというのだ。
真壁瑞希
「もしかして、紗代子さんと百合子さんの件、ですか?」
馬場このみ
私は表情を変えずにゆっくり頷く。
豊川風花
「え、2人に何かあったの?」
真壁瑞希
「いえ、実は……」
馬場このみ
……これならいけるかもしれない。そう思える案がひらめいたことは確かに嬉しい。
馬場このみ
でも、それ以上にあることに気付けたことが嬉しくもあり、同時に情けなく、そして心強かった。
豊川風花
「スピカのフェス……確かにそれは大変ですね」
真壁瑞希
「はい。それで昨日も亜利沙さんと3人で悩んでいたのですが……」
馬場このみ
チラリと瑞希ちゃんが私を見る。風花ちゃんもつられて私の顔を覗った。
馬場このみ
「安心してちょうだい!プロデューサー馬場このみの手腕にね!」
馬場このみ
良かった。どうやら私は、ようやくスタート地点に立てたみたいだ。

(台詞数: 50)