悲劇「王女と琵琶」
BGM
水中キャンディ
脚本家
遠江守(えんしゅう)P
投稿日時
2016-06-17 01:51:50

脚本家コメント
セクシーなゴーストのエピソードをエピックにしてみました。
久々の短編。
旬の時期からどれだけ経ってるんだよ…。

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馬場このみ
むかし、むかし。
馬場このみ
ある国に、たいそう美しい王女様がいました。
馬場このみ
その美貌は、夜に天を仰ぎ見ると、星々が恥じて光を消してしまったとさえ言います。
馬場このみ
もっとも、家族と側仕えの人以外で、その王女様を見たことがある人は、ほとんどいませんでした。
馬場このみ
高貴な若い女性は、家族と良人となる殿方以外には、みだりに顔を見せないものでしたから。
馬場このみ
しかし、人の口に戸は立てられぬと言います。
馬場このみ
いつしか、この国の王女様は絶世の美女であるとの噂が、国の内外で流れるようになりました。
馬場このみ
すると、臣下の者や外国の使者が、用も無いのにひっきりなしに王宮を訪れるようになったのです。
馬場このみ
いずれも、一瞬でもいいから王女の美貌を目の当たりにしたいという、下心の持ち主でした。
馬場このみ
王様は賢い方でしたので、よりいっそう、彼らの目から王女様を隠すようにしました。
馬場このみ
王女様をお城の一番高い塔に移し、決して窓を開けないようにと言いつけたのです。
馬場このみ
ですが、王女様にとっては、それは息の詰まるような暮らしでした。
馬場このみ
そこで、少し知恵を巡らせた王女様は、顔さえ見られなければ良いのだと思いつきました。
馬場このみ
窓を開けてそこに幕を垂らし、外から自分の顔が見えないようにしたのです。
馬場このみ
風通しも良くなって気分も晴れた王女様は、ふと遠くから聞こえてくる音色に気付きました。
馬場このみ
それは、誰かが奏でる琵琶の音と、朗々とした歌声でした。
馬場このみ
それがあまりにも楽しい音色でしたので、王女様は笑いながら、調子に合わせて歌いました。
馬場このみ
そして、次の日はまた別の調子の音楽が聞こえてきました。
馬場このみ
それがあまりにも悲しい音色でしたので、王女様は涙を流しながら歌いました。
馬場このみ
そしてある時、まるで滅茶苦茶に、琵琶をかき鳴らす音が聞こえました。
馬場このみ
今までにない酷い音色に、固く禁じられていたのを忘れて、王女様は幕を上げてそちらを見ました。
馬場このみ
その時、窓の外から、多くの人々が王女様の顔を見ることになりました。
馬場このみ
悪巧みにも、琵琶を持ち主から取り上げて鳴らした者がいたのです。
馬場このみ
そして、王女様の美貌を知った求婚者が、次々と王宮へと押し寄せることとなりました。
馬場このみ
王女様は、自分が顔を見せたことが、どうしてこの事態を招いたのかと、困惑するばかりでした。
馬場このみ
人々が狂ったように求める自分の美貌とは、鏡を見ればいつもそこに写るものでしたから。
馬場このみ
しかし、ここに至れば、誰かを良人として選ばなければ、とても収まりません。
馬場このみ
そこで、王女様は宣言しました。私の美しさを、私に知らしめた者を、良人とする、と。
馬場このみ
輝かしい武勲を誇る勇士も。巧みな文辞を用いる知恵者も。
馬場このみ
誰一人として、王女様の心を動かすことはできませんでした。
馬場このみ
そして、最後の最後に、かの琵琶の持ち主である、詩人の番となりました。
馬場このみ
王女様は驚きました。なんと、その詩人はめしいていたのです。
馬場このみ
光り輝くような美貌であれ、どうして目の見えぬ者がそれを知り、教えることができるでしょうか。
馬場このみ
しかし、詩人は堂々と前に進み出ると、良く透る声で王女様を讃え始めたのです。
馬場このみ
王女様は、私が民の楽しみを歌ったときは共に喜び、民の悲しみを歌ったときは共に嘆きました。
馬場このみ
心豊かで思いやりがあり、まさに心の美しい方です。
馬場このみ
王女様は、その言葉に、確かに美しさを見ました。
馬場このみ
衣をはためかせ、詩人のもとへ走り寄り、その手を握って声をかけました。
馬場このみ
詩人よ、私は貴方の妻となりましょう。私はたった今、私の美しさを知りました。
馬場このみ
婚儀は成りました。詩人と王女様は、結ばれたのです。
馬場このみ
しかし、これでめでたしめでたしと終わらないのが、世の哀しさというものです。
馬場このみ
嫉妬に狂った求婚者たちが、手に手に武器を取り、王様とその婿となった詩人を弑したのです。
馬場このみ
王女様は連れ去られ、次の日にはまた別の者に連れ去られ、争いがさらに争いを呼びます。
馬場このみ
そして、最後にその国は、王女様を我が物にせんとした隣国の王によって滅ぼされました。
馬場このみ
その際に、王女様は、王国で一番高い塔の窓から身を投げたと言われています。
馬場このみ
その心が美しいと言ってくれた詩人の、形見の琵琶を抱きながら。
馬場このみ
……
馬場このみ
ぽろり、と涙が流れた。
馬場このみ
これは…夢?

(台詞数: 49)