馬場このみ
最後の日。
馬場このみ
これは人生最後の日とか、そんな大袈裟な意味ではなくて…
馬場このみ
学び舎で過ごす最後の日という意味での最後。
馬場このみ
今までは大人の世界に片足を突っ込んでいただけだったかもしれないけれど…
馬場このみ
今日、この式典が終わるその瞬間から、自分の両足でしっかりと立たないといけない。
馬場このみ
立つだけじゃなくて、歩かなくちゃいけない。
馬場このみ
着物の袖に手を通して、頬を赤く染める凛としたその顔立ちは太陽の陽よりも眩しい。
馬場このみ
それは見る者全てを魅了して、友の、親の、視線、記憶に刻まれるでしょう。
馬場このみ
空を仰げば清々しい程に蒼に染まっていて、まるで私達の門出を祝ってくれているみたいね。
馬場このみ
正しく卒業日和ね。
馬場このみ
ふと、大空に浮かび上がる貴方の笑顔。
馬場このみ
「ふふっ…」
馬場このみ
「そうよね…」
馬場このみ
「私の学生生活、振り返えるには貴方の存在は欠かせないものね…」
馬場このみ
天気予報が嘘を吐いた雨の日。
馬場このみ
それこそが私と貴方の出会った日。
馬場このみ
お互い天気予報を鵜呑みにしていなかったら、顔も名前も知らないままだったのかもね。
馬場このみ
そう考えたら何だか妙縁に感じるわね。
馬場このみ
雨雲から零れ落ちる雫に打たれながら、二人で天気予報の愚痴を地面に零した。
馬場このみ
あの日初めて知った、お互い隣の教室で講義を受けていたなんて、少し出来過ぎだけれど…
馬場このみ
それもまた、運命だって思えたの…。
馬場このみ
約束したわけじゃないけれど…
馬場このみ
週に一度のライン通知…
馬場このみ
会わない週末の報告。
馬場このみ
約束なんてしなくても、毎日会えたわよね。
馬場このみ
でも、それも今日までなのかしら…
馬場このみ
卒業生が次々に式会場に通されていく。
馬場このみ
貴方と初めて話した日の思い出、そんな宝物をそっと胸にしまって…
馬場このみ
私もその集団の中に混じって歩き出す。
馬場このみ
貴方の姿を探しながら、ゆっくりと…
馬場このみ
「はぁ…」
馬場このみ
結局貴方を見つける事ができないまま、卒業式は始まって…
馬場このみ
そのまま終わってしまった。
馬場このみ
卒業証書を貰い、構内に出て、辺りを見渡すと各自が好きなように写真を撮り合っている。
馬場このみ
「楽しそう…」
馬場このみ
「はぁ…」
馬場このみ
少し羨ましく妬ましく思いながら、本日二度目の溜め息。
馬場このみ
直後、携帯の振動が全身に伝わってきて…
馬場このみ
取り出して確認する私。
馬場このみ
『振り返ってごらん』
馬場このみ
そう貴方からの通知が届いていた。
馬場このみ
振り返ると、そこには貴方がいて微笑んでくれている。
馬場このみ
不意の出来事に慌てちゃって何を言っているのか聞き取る事ができなかったけれど…
馬場このみ
『卒業おめでとう』
馬場このみ
なんとなく、そう言ってくれているような気がした。
馬場このみ
「卒業おめでとう」
馬場このみ
オウム返し気味に思われるかもしれないけれど、私の心から出た祝言。
馬場このみ
だって…私にとって貴方はとっても大切な人よ、だなんて言えるはずないから…
馬場このみ
学生最後の日らしく、いつもみたいにこう別れたんだ。
馬場このみ
「またね」
(台詞数: 50)