馬場このみ
ただ蒼い夏の日。
馬場このみ
思い出す光景に特別なんてないけど、忘れられない純水な記憶。
馬場このみ
楽しかったの?
馬場このみ
ううん、別に。
馬場このみ
じゃあなんでかな?
馬場このみ
それは……
馬場このみ
なんでだろう。
馬場このみ
畦道は綺麗に舗装されたアスファルト。
馬場このみ
ビルに睨まれ影を見失う。
馬場このみ
田は埋め立てられ……今はもう、蛙と蝉の合唱も聞こえない。
馬場このみ
あんなに煩わしかった筈なのに、ね。
馬場このみ
悲しいの?
馬場このみ
そうじゃないわ。
馬場このみ
じゃあなんでかな?
馬場このみ
それは……
馬場このみ
あっ。
馬場このみ
気まぐれな風に攫われた帽子が駆け出していく。
馬場このみ
そこには、セピア色の向日葵畑。
馬場このみ
……。
馬場このみ
漠然と願っていた。
馬場このみ
いつまでも変わらない姿であって欲しいと。
馬場このみ
太陽はいつまでも私の頭上で輝いていて欲しいと。
馬場このみ
……君も、私も。
馬場このみ
そのままで居ようと勝手に指切りをした。
馬場このみ
そっと、手を……伸ばしてみる。
馬場このみ
落ちていく。
馬場このみ
剥がれていく。
馬場このみ
記憶の欠片は音を立てて、本来の色彩を取り戻していく。
馬場このみ
嗚呼、蒼い夏の日。
馬場このみ
思い出す光景に特別なんてないけど、忘れられない純水な記憶。
馬場このみ
ねえ。
馬場このみ
誰よりも知っている、子供の声は、
馬場このみ
私は、ここにいるよ。と寂しそうに囁いて。
馬場このみ
風と共に消えていった。
馬場このみ
……。
馬場このみ
凍てついた太陽の墓場で、独り思う。
馬場このみ
何故、届かないと知りながら背伸びをするのか。
馬場このみ
全てあの日のままで居られたら。
馬場このみ
別に今を悲観しているんじゃなくて。
馬場このみ
……少し、虚しくなっただけ。
馬場このみ
嗚呼、気付いたんだ。
馬場このみ
こうした夢想はただ儚くて。
馬場このみ
儚いから美しいもの。
馬場このみ
明日からはいつも通り、ぽっかり空いた穴に楔を打ち込んで生きていく。
馬場このみ
また忘れて、いつの日か、同じように太陽の姿を思い出す。
馬場このみ
その度に言うんだ。
馬場このみ
せめて今日だけは……子供で居させて。
馬場このみ
滴は、供物を捧げるように地に落ちて昇っていく。
馬場このみ
ただ蒼く、乾いた空へと。
(台詞数: 49)