馬場このみ
秋風が漸寒(ややさむ)く
馬場このみ
夏の頃に比べ、秋が深まると共に、着る物が次第に増えていき…
馬場このみ
あれだけ鬱陶しく感じた夏がほんの少し恋しくなる
馬場このみ
秋渇きのせいか、食欲の秋のせいか、夏に比べお腹が少し出てきた気もする…
馬場このみ
でもそれは肌を覆う布が増えたせいで…
馬場このみ
着太りなのだと思いたい
馬場このみ
山々の木々、疎らではあるけれど、鮮やかなほどに、紅く色付き始めている。
馬場このみ
電車の車窓から、遠方に見える山を眺めながら…
馬場このみ
日常に垣間見える秋日和を、私はすっかり満喫していた
馬場このみ
私は今、電車に揺ら揺らと揺られながら、待ち合わせ場所に向かっている
馬場このみ
今日は、大切な人と秋祭りに行く約束をしているからだ
馬場このみ
秋祭りと言っても、世間一般的に考えられている、舞や芸能の奉納等などの日本古来のモノではなく
馬場このみ
異国から日本に輸入された秋の収穫感謝祭の事である。
馬場このみ
指定された駅で降車をし、二人で予め決めておいた場所へと向かう。
馬場このみ
駅構内を出ると、町はすっかり装飾されていて、見事なまでに収穫祭色へと染められていた。
馬場このみ
吸血鬼、食屍鬼、魔女、お化け。人々は各々の好きなように仮装をしている。
馬場このみ
そんな私はついさっきまで撮影していた時代劇の和服
馬場このみ
本当は魔女の仮装をする予定だったのだけれど、撮影がギリギリまで長引いてしまって…
馬場このみ
着替える暇がなかったのだ…
馬場このみ
はぁ…、失望させてしまうと思うとため息が出る
馬場このみ
あぁ、いけない、私はふと我に返ると、咄嗟に両頬を軽く叩いた
馬場このみ
前を向くと、そんな私を揶揄う様に、南瓜の提灯が此方を見つめている
馬場このみ
南瓜の提灯と暫く睨めっこ
馬場このみ
「このみさん」
馬場このみ
その声に気付いてから、私はその南瓜の提灯に白旗をあげて、仕方なく勝ちを譲る。
馬場このみ
そして最後の負け惜しみに、軽く舌を出してから、勢いよく振り返った。
馬場このみ
目の前には想い人
馬場このみ
私の顔を見るなり、彼はニッコリ微笑んで…
馬場このみ
「その着物、とても似合っています」
馬場このみ
「素敵です」
馬場このみ
世辞のつもりなのか、彼は、堂々と恥ずかしげもなく、そんな褒め言葉を零す。
馬場このみ
そして、そんな彼とは対照的に、私の顔は熱を帯びて赤面…
馬場このみ
あ、ありがとう
馬場このみ
褒めたって、何もでないんだから…
馬場このみ
一応、飴はあるんだけれども、これは子供たちにあげるものだし…
馬場このみ
「いつもこのみさんに言われている事を言ってしまうみたいで嫌ですけど…」
馬場このみ
「子供扱いしないでくださいよ」
馬場このみ
頭の後ろに手をあてて、反応に困ったようにしている彼の事が、尚愛おしい
馬場このみ
それより、今日もいつもと同じ背広姿なのね
馬場このみ
「あっ、すみません…本当は仮装するつもりだったんですけど…」
馬場このみ
ううん、いいのよ
馬場このみ
とっても似合ってて、素敵よ
馬場このみ
飾らない、いつも通りのあなたが、私は好きよ
馬場このみ
だから、これからも…
馬場このみ
やっぱ、なんでもない
馬場このみ
彼のスーツの袖を軽く掴んで、私は彼と見つめあう
馬場このみ
それより、そろそろ行きましょ?
馬場このみ
グイグイッと、私が急かす様に二度ほど引っ張ると、彼は顔を赤らめて…
馬場このみ
それから二人は、歩調を合わせて歩き出す
馬場このみ
これからも、ずっと…この歩みを続けたい
(台詞数: 50)