アイドルになる日
BGM
カワラナイモノ
脚本家
nmcA
投稿日時
2016-07-25 23:29:11

脚本家コメント
これは環が765プロへ来るちょっと前のお話
ベタなもの以外も書けるようになりたいなぁ

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大神環
「たまき、アイドルになる!」
大神環
孫からアイドルという言葉を聞いたのは、その時が初めてだったと思う。
大神環
息子はビール片手に頑張れと応援していたが、嫁はあまりいい顔をしていなかった。
大神環
「アイドルになったら、この町を離れないといけないし、おばあちゃんとも友達とも遊べないのよ」
大神環
「そうなのかー」と孫はTVの『飛び出せどうぶつワールド』を見ながら残念そうに呟いた。
大神環
孫はこの動物番組を欠かさず見ており、その上で録画もしている。
大神環
司会をしている快活な少女がアイドルと知り、孫はアイドルになりたいと言ったのだろう。
大神環
結局、番組に出てきた少女のたくさんのペットに盛り上がり、アイドルの話はウヤムヤとなった。
大神環
しかし、この一ヶ月後、思いがけない形で、孫の台詞を聴き直すことになる。
大神環
息子に東京への転勤の辞令が出た。
大神環
本社への栄転ということで息子と嫁は喜んでいた。
大神環
一方、孫は引っ越しの話を聞いて以来、ぼんやりすることが増えていた。
大神環
「たまきが卒業するまではこの町に住めないかしら」
大神環
孫が床に就いた後、嫁が息子に提案した。
大神環
「6年間通った学校よ。友達と一緒に卒業したいだろうし」
大神環
「転勤は待てない。そうなると、俺が単身赴任するということか」
大神環
「環はまだ11歳じゃ。父親と離れ離れなのは良くない」「それは、そうですけど……」
大神環
「大丈夫、環は強い子だ。友達との別れも乗り越えられる」私はぬるくなった緑茶をすすった。
大神環
翌日、学校から帰ってきた孫は変な黒い男を連れてきた。
大神環
思わず逆さ箒で対応してしまったが、裏の森で迷っていた所を孫が助けてあげたらしい。
大神環
「いやあ、助かりました」男は高木順二朗と名乗った。名刺にはアイドル事務所の社長とある。
大神環
「うん、ティンときた!環くん、アイドルになってみないか?」
大神環
「アイドル?アイドルってひびきちゃんみたいな?」「おお、我那覇くんはうちの誇るアイドルだ」
大神環
男は嬉しそうに笑った。「どうだね、やってみないかい?」
大神環
「本気で言っているんですか!?」私は思わず声をあげると、「もちろん!」と男は大きく頷いた。
大神環
孫を見るとジッとしつつも、目をキョロキョロと泳がせている。
大神環
「返事はいつでも大丈夫だ。我が765プロはいつでも君のことを待っておるぞ」
大神環
その日の夕食後、4人で食卓を囲み、昨晩話した単身赴任の話をした。
大神環
「環はどうなんだい?」息子が孫に尋ねる。
大神環
「環は今年で小学校を卒業だ。友達とも別れたくないだろう。それならお父さん1人で東京へ行く」
大神環
「イヤだ。たまきはお父さんと離れたくない!」
大神環
「それじゃあ、一緒に」「……」孫は手をギュッと握って、俯いたまま黙った。
大神環
「環、無理しなくて良いのよ。環が残るなら私も残るから。東京だって行きたくないんでしょ?」
大神環
「違う。東京は行ってみたいし、友達と離れ離れになるのも我慢できる。でも……」
大神環
孫の目から光るものが、落ちた。
大神環
「おばあちゃんと離れたくない。東京に行ったら、ばあちゃんと一緒にいられないんでしょ!?」
大神環
私の体がビクリと動いた。
大神環
郷里を離れ、都会で新生活を始めることは老体には堪える。だから私はこの町に残ることにしていた
大神環
私は孫を強い子と言った。確かに友達との別れを我慢できる強さを持っている。だが、それ以上に…
大神環
「ばあちゃんが一人ぼっちなんてかわいそうだよ……」
大神環
それ以上に優しい子だった。
大神環
「たまきや、私のことは気にしなさんな」「でも……」
大神環
「そうだね、それじゃあ、一つばあちゃんからのお願いを聞いてくれるかい?」
大神環
「環よ、アイドルになってくれないかい?」
大神環
息子と嫁は目を丸くした。孫も驚いている。
大神環
「アイドルになって、テレビの向こうで元気な姿を見せてくれないかい?」
大神環
孫が顔をあげる。その両目にたっぷりの涙を浮かべて。
大神環
「うん、たまき、アイドルになる!」
大神環
私の視界はとっくに滲んでいた。孫の顔も分からないほどに。だからだろうか。
大神環
目の前の孫は、綺麗な衣装を着て、多くのスポットライトを浴びているように見えた

(台詞数: 50)