福田のり子
……莉緒さん、なんであたし達だけこんな朝早く外出するわけ?明日の登山に備えてオフなのに。
百瀬莉緒
このヤウダにはね、私が両手剣を習った『師匠』がいるの。のり子ちゃんにも会わせてあげるわ。
福田のり子
へえ、あたしの師匠格の莉緒さんの、師匠か。たしかに為になりそう!
福田のり子
イーストガード(侍)って、凄い剣の腕と特攻上等の精神力を持つ『漢』なんでしょ!?
百瀬莉緒
……ちょっと先入観がキツいわねえ。まあ、実際会うほうが早いわね。
豊川風花
……莉緒。久しぶりだな、精進しているか。
百瀬莉緒
ええ、卜伝(ボクデン)様。師匠もご機嫌麗しいようで何よりです。
福田のり子
……あの、莉緒さん、もしかしてこの人が……
豊川風花
君がのり子君か。莉緒からの書状で聞いているぞ。数ヶ月でメキメキと腕を上げたそうだな。
福田のり子
(あの、莉緒さん。イーストガードって男の人ばかりだし、『卜伝』も男名だよね?でもさ……)
百瀬莉緒
師匠、再開懐かしゅうございますが、私達は使命を帯びた旅の身。早速稽古を付けていただきたく。
豊川風花
そうだな……では、のり子君を連れて屋敷に戻ろう。莉緒は夕餉の材料を買って来てくれ。
福田のり子
ええと……なんだか頭が混乱してるけど。手合わせ、よろしくお願いします。
福田のり子
【邸宅】……
百瀬莉緒
……ただ今戻りました。のり子ちゃん、特訓のご感想は?
福田のり子
……完敗だよ。こっちは真剣で斬りかかってるのに、大師匠に木の棒でアッサリ捌かれるなんて。
百瀬莉緒
本気の手合わせなら、私だって一本も取れないわ……鍔迫り合いに持ち込めたなら、大したものよ。
福田のり子
ねえ莉緒さん。大師匠はなんで男の名前を名乗ってるの?どう見ても、女の人……なのに。
百瀬莉緒
イーストガード(侍)の勤めは、男性のみのもの。ところが師匠の家では、娘しか生まれなくて……
百瀬莉緒
物心つく頃には、名を改め剣に打ち込んだそうよ。異端だから、誰よりも秀でようと苦労したって。
福田のり子
どう考えても無茶苦茶だよ。家の事情なんて無視して、普通の女の子として暮らせばいいのに……。
百瀬莉緒
チカパの山から怪物が来るし、皇帝の首を七英雄に捧げて王国の栄華再び、なんて勢力もいるの。
百瀬莉緒
この地から争いが消える事は無いし、誰がが闘わなければならないなら自分がやる。そういう方よ。
百瀬莉緒
それはそうと!師匠に晩御飯作らせて、自分は休んでるつもり!?手伝ってきなさい!!
福田のり子
うわ、本当だよ!ちょっと台所に行ってきます!
豊川風花
〜♪……〜♪
福田のり子
……
福田のり子
隙有り!『カポエラキック』!!
豊川風花
(バシッ!)
福田のり子
嘘……背中から仕掛けたのに。有り得ない方向から蹴ったのに。鍋蓋で止められるなんて!
豊川風花
足音も忍ばせたのに……でしょ?客間で立ち上がった時から、闘志が丸出しだったわ。
福田のり子
……もしかして大師匠、予想してた?あたしが不意打ち上等で、一本とってやろうと考えるって。
豊川風花
そんな疑ってかかったりしないわ。……ただ、周囲を『あるがままに』感じているだけ。
福田のり子
……
豊川風花
自分自身の感情と考えを拭い去って。風の流れより微かな『流れ』に気づけば、できるわ。
福田のり子
よく分かんないけど……恐れや迷いを越えて、相手に気持ちで負けないように闘えってこと?
豊川風花
恐れや迷いだけじゃなくて、自信や慢心、気迫や闘志、義務感や使命感、絶望や希望も捨て去る。
豊川風花
莉緒さんが、唯一貴女に教えてる『無無剣』は、敢えて目を瞑り、己を消して相手を斬る太刀。
豊川風花
……さらに修行して、己も敵も心の内から消し、雑念を齎す『世界』すら消し去り……
豊川風花
全てが消えた『虚無』の中に、一筋の光明を見出す。それがカタナの世界の境地。
豊川風花
全てをありのままに受け容れ、顕れる断つべき太刀筋を、ただ一度のうちに切り払えば……
豊川風花
(ヒュン!)(……ガラン。)
福田のり子
……え?酒樽が真っ二つだよ。……剣筋も剣圧も気づかなかったのに。
福田のり子
いや、変だよ!大師匠が持ってるの、刀じゃなくて包丁!!なんで刀身より太い物が切れるの!?
豊川風花
二度目無く相手を斬る。この技こそ、すなわち「一の太刀」。光明を見出すゆえ、又の名を……
百瀬莉緒
な、何事ですか!大きな音が……キャアッ、お酒が零れ落ちてる!それにかまどのお鍋も……
豊川風花
ああっ、吹きこぼれてる!天麩羅も黒焦げに……
福田のり子
……ごめん大師匠、お料理の最中に長話させて、剣の指導までさせちゃって。
豊川風花
……とりあえず、ご飯にしましょうか。今日のために色々用意したのになあ……
(台詞数: 49)