豊川風花
「……あ、この建物。」
豊川風花
お仕事の移動中、とある展示場の前を通り過ぎた。お車だったので、ほんの一瞬の出来事。
豊川風花
だから、その入り口には看板が立っていたかどうか分からなかった。多分、在ったと思うけど。
豊川風花
アイドルとしての私に、鮮烈な思い出を残した……ゲームフェス。多分今年も開催されますよね。
豊川風花
去年の今頃は、すごく戸惑ってたのを覚えてます。患者さんの携帯ゲームを横目に見るくらいで、
豊川風花
そんな私が、熱烈なゲームファンの皆さんの真っ只中に行くなんて……想像もしてなかったです。
豊川風花
水着の仕事とかは、この業界に入る前から覚悟してたけど。こんな形の仕事をするなんて。
豊川風花
『ゲームの全てを理解しなくてもいいから、演じるライラのことは把握しておいてくれ。』
豊川風花
『あとは、このタイトルを愛してる人に敬意を持って。それから、自分に自信を持って。』
豊川風花
『風花のルックスと、包容力があれば……きっとこの仕事は成功する!堂々と行ってこい!』
豊川風花
……プロデューサーさんのディレクションが大雑把で精神論だったのが、良かったんですよね。
豊川風花
皮肉じゃないです。いちからゲームの知識を詰め込まれたり、マニアに受ける素振りを狙ったら、
豊川風花
きっとボロが出て、私も不安になって……ブースやステージをこなせなかったと思いますから。
豊川風花
…もしかしたらプロデューサーさんも、お仕事の話が来てから、慌ててゲームのこと調べたのかも。
豊川風花
プロデューサーさん、お忙しいから。私達を売り込んで、お仕事の現場でも走り回って。
豊川風花
いつも、ゆっくりお食事もしてないですからね。もちろん、あの現場でもフェスのときも。
豊川風花
だから、あの日……ポケットに仕舞っておけて、ちょっとの間に摘める、クッキーを作ったんです。
豊川風花
プロデューサーさんが倒れちゃったら、私達、イベントを乗り越えられないと思ったから……
豊川風花
お腹に溜まらなくても、食べないよりは心が落ち着きますし。糖分は頭の回転にいいですから。
豊川風花
プロデューサーさん、持って来た私が食べないのを不思議がってましたけど……
豊川風花
あの『猫ちゃん』達は、みんなプロデューサーさんのために用意したんですよ。
豊川風花
だから、全部プロデューサーに食べて貰いたかったんです。全部渡せて、嬉しかったんですよ。
豊川風花
……
豊川風花
白い『猫ちゃん』は、バニラを効かせた甘い子。キラキラしたアイドルの世界の、喜びの表現。
豊川風花
黒い子は……お砂糖を減らした、ビターな子。イジワルなプロデューサーさんに、ちょっと反撃。
豊川風花
……噛み締めてもらえると、黒い子もどんどん甘味が染みてきますけど……
豊川風花
……どこまで行っても、プロデューサーへの感謝や恩義は、隠しきれない、のかな。
豊川風花
……
豊川風花
……今年のフェスが開催されて、それが終われば……去年の事なんて、忘れ去られるんでしょうね。
豊川風花
それでも……あの日会場にいらっしゃった誰かの心に、少しでも思い出を作れたなら、
豊川風花
ほんの一瞬の出会いで喜びを与えられていたなら……アイドルとして、本望かもしれません。
豊川風花
……貴方には、この一年でどんな思い出が残ってますか?今も忙しい、プロデューサーさん?
豊川風花
その思い出の中に、私が居たなら嬉しいですけど……聞くのは怖いから、しませんね。
豊川風花
私だけの、じゃなくて、貴方は『私達の』プロデューサーだから……
豊川風花
……
豊川風花
……いけないいけない。自分に自信を持っていないと。私は、誰かを癒せる力が有る筈だから。
豊川風花
「プロデューサーさん、お昼を摂ってないんじゃ?良かったら、クッキーが有りますけど……」
(台詞数: 37)