朝に『道』を知れば、夕方に終焉が来ても。
BGM
オレンジの空の下
脚本家
イッパイアッテサ
投稿日時
2015-05-10 21:00:48

脚本家コメント
身内に、看護師の資格を持っている者がおりまして。
簡単に得られる資格ではないと。
風花さんがアイドルを選ぶまでに何が有ったのだろうか。そんな事を考えたみたドラマです。

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豊川風花
……朝、まどろみの中、不安に陥ることがある。
豊川風花
……寝坊していないか。まだ眠っていても良いのではないか。回らない頭で不安が巡る。
豊川風花
……そうだ。前職の名残だ。今日は日勤なのか、夜勤なのか、休日なのか。
豊川風花
……ローテーションでは規定されない、地方ロケ等で不規則になった、アイドルとしての日々。
豊川風花
それでも、あの日々の感覚が抜けないのは……『負い目』、からだろうか。
豊川風花
……
豊川風花
学友との日々が終わったとき、私は看護師になる道を選んだ。
豊川風花
もともと、人のために尽くすことに喜びを感じていた。
豊川風花
病に苦しむ人に向き合い、寄り添い支える仕事をすれば、それが世界のためになると思っていた。
豊川風花
学科、実習、試験……挫折する間も無い看護学校での日々は、私を「看護師」にした……
豊川風花
……そう信じていた。途中までは。
豊川風花
晴れて看護師の勤めを始めた日々は、輝くようだった。
豊川風花
見習い、経験不足の中で失敗も数え切れなかった。我ながら頼りない限りだったけど……
豊川風花
患者さんや先生からの、感謝の言葉、信頼の眼差しが、なによりの褒賞だった。
豊川風花
勤務体系はハード、厳しい言葉も掛けられ、休日もまともに体が休まらなかったけど、
豊川風花
私の生涯は、この、奉仕の日々に捧げるのだと考えていた。
豊川風花
……
豊川風花
……いや、正しくない。多忙さと緊張感の中で、自分の心の囁きを聞き取れなかっただけ。
豊川風花
……何時からだっただろうか。私の心に、生き方への疑問が生じたのは。
豊川風花
「苦しむ人のため」・「社会のため」ではなく、『私のため』としての、私の人生。
豊川風花
誰かに捧げるのではなく、自分のために遣うものとして……今の私の生き方は、価値が有るの?
豊川風花
違う、そうじゃない。看護の仕事に価値が無いんじゃない。断じて。
豊川風花
人生についての『考え方・価値観』。私はそれを正しく持てているの?
豊川風花
……自問の日々は、何ヶ月も続いた。奉仕することで喜びを得ながら、満たされない日々。
豊川風花
……
豊川風花
……病院を辞めた。貯金を頼って、アイドルとしてのレッスンに懸ける生き方を選んだ。
豊川風花
看護師になる『使命感』を持つ前の、幼い日のとりとめのない『憧れ』。
豊川風花
選択が正しかったかの自信は、無かった。率直に言って、アイドルに成った今でも自信は無い。
豊川風花
親にも同僚にも、学友にも反対された。常識云々の前に、私がそんな判断したのが異常だそうだ。
豊川風花
……
豊川風花
「わが任務を忠実に尽くさん」、「心より医師を助けん」。
豊川風花
……戴帽式での誓いは、もう果たせない。裏切るつもりは無くとも、その現場には立てない。
豊川風花
『病が発症してなくても、心が病み、苦しむ人は沢山いらっしゃる。本人が気づかない事もある。』
豊川風花
『看護師であるより、アイドルに成れば、そんな人達を癒せるかと思って。』
豊川風花
……
豊川風花
自分の不安を消すために、そして『誓い』を果たせない言い訳に考えたことだ。
豊川風花
自我が芽生えたかどうか、あやふやな頃の未発達な感覚……
豊川風花
それを「選んでしまった」ことは……私が一生背負わなければいけない枷だ。
豊川風花
正しかったと結論づけるために、私は自分の一生を捧げねばならない。
豊川風花
看護師としての学びの日々と、看護師として頂戴した信頼とを投げ打った、
豊川風花
それだけの価値を、アイドルの自分に見出さなければならない。
豊川風花
誰のためでもなく、自分のために……
豊川風花
……
豊川風花
今日も私の一日が始まる。差し込む日の光とともに。
豊川風花
今日だけで、私の「人生の答え」は見つからないかもしれないけど……誠実に、お仕事しよう。

(台詞数: 45)