篠宮可憐
あ・・・あが・・・うぁ・・・
篠宮可憐
『診察台の上で、私はにじり寄ってくる死の恐怖と戦っていた』
篠宮可憐
『意識ははっきりしている。いや、逆に意識を手放してしまえばそれまでだ』
篠宮可憐
『どうしてこんなことになった?』
篠宮可憐
『そんな疑問を自らに問いながら私はこうなるまでの経緯を思い返す』
篠宮可憐
『きっかけは奥歯に感じた鈍い痛み。それだけだった』
篠宮可憐
『どうやら虫歯のようなのでオフの日に歯科医を受診した』
百瀬莉緒
『Pから腕のいい医者だと紹介された彼女の見立てにより、少し歯を削る事になった』
篠宮可憐
『私は言われるがまま、診察台に横たわり口を開ける』
百瀬莉緒
痛かったら右手を上げてくださいね~
百瀬莉緒
『彼女は治療用のドリルを起動させ、慣れた手つきで奥歯を削り始めた』
篠宮可憐
『なるほど、言われた通り腕は確かなようだ。ドリルによる振動は気になるが痛みは感じない』
篠宮可憐
『このまま何事もなく治療は終わる。そう思っていた』
篠宮可憐
『だが違った』
篠宮可憐
『ご存知の方も多いだろうが歯科医の使うドリルは水を噴射する作りになっている』
篠宮可憐
『摩擦熱を軽減するためだ。そして噴射された水は助手の看護師によって吸引される』
篠宮可憐
『ズゴゴ!と口の中を吸い込まれるアレだ』
篠宮可憐
『だが私の治療に立ち会った助手の看護師』
豊川風花
『彼女は全く動かなかった』
豊川風花
『ニコニコとして手を動かす気配はまるでない』
篠宮可憐
『するとどうなるか、皆さんはもうお分かりだろう』
篠宮可憐
『溺れるのだ』
篠宮可憐
『吸引されぬままドリルから出る水はどんどん私の口の中を満たしていく』
篠宮可憐
『私は軽いパニックに陥る。一体どうなっているんだ』
篠宮可憐
『水を飲んでしまえばいい。そう思う方もいるだろう』
篠宮可憐
『だが、ドリルは今私の奥歯を削っている』
篠宮可憐
『水を飲み込もうとすれば当然ドリルの側にある舌が動く』
篠宮可憐
『少しでも動けば、殺られる』
篠宮可憐
『たまらず私は右手を上げた。そうすれば治療を止めてくれるはずだ』
豊川風花
大丈夫ですよー。先生は上手ですから痛くないですからねー
篠宮可憐
『違う!そうじゃない!確かに先生の腕はいい!問題は貴女なのだ!』
豊川風花
もうちょっとですからねー
篠宮可憐
『うっせえ!仕事しろ!』
篠宮可憐
『必死の合図も見送られ、私に打つ手はなくなった』
篠宮可憐
『ただ、耐える。もうそれしかない』
篠宮可憐
『怖い、怖い。こんなところで死にたくない。歯医者で溺死なんて意味が分からない』
篠宮可憐
『短い時間が何年にも感じられ、苦しさに指先が震え始めたとき』
百瀬莉緒
はーい、お疲れ様でしたー
篠宮可憐
『治療が終わった』
篠宮可憐
『ドリルが引き抜かれたことを確認して私は喉を鳴らして溜まった水を飲み込んだ』
篠宮可憐
『少し金属の匂いのする、不味い水だった』
篠宮可憐
『でもそんなことなど気にならない程、安堵の感情が私を満たしていた』
篠宮可憐
『治療費を払い、生きて病院を後にした私は決意する』
豊川風花
皆さん!歯磨きは毎日キチンとやりましょうね!
篠宮可憐
~おわり~
(台詞数: 45)