福田のり子
大歓声を背に、アタシはステージを後にした。
福田のり子
乱れた息もそのままに、ふわふわとした足取りで舞台袖へと戻る。
福田のり子
――迎えてくれたのは、いつもの様に眉間にしわを寄せたプロデューサー。
福田のり子
ま、まぁ確かにダンスちょっとだけ失敗しちゃったけど……さ。
福田のり子
せっかくの武道館なんだから、ちょっとくらい大目に見てくれても……なんて思ってた。
福田のり子
せっかくの武道館なんだから、ちょっとくらい大目に見てくれても……なんて思ってた。けど。
福田のり子
お小言はなく、プロデューサーは待ち合わせの時みたいにアタシに向かってそっと手を上げる。
福田のり子
……本当は、勢いよくバチーン!とハイタッチしたかったけど。
福田のり子
……本当は、勢いよくバチーン!とハイタッチしたかったけど。なんせ舞台袖。合わせるだけ。
福田のり子
「よくやった」
福田のり子
触れ合うだけのはずだった掌を、しっかりと絡ませて。プロデューサーは、そう言った。
福田のり子
――早いよ。
福田のり子
何とかそれだけ口にして、アタシは化粧直しで楽屋に向かう為に、そっと手を離す。
福田のり子
「よくやった」
福田のり子
背中越しに飛んでくる言葉に、アタシは思わず振り返った。
福田のり子
プロデューサーは振り向かない。
福田のり子
プロデューサーは振り向かない。アタシも、何も言わない。
福田のり子
震える肩も、
福田のり子
震える肩も、鼻をすする音も、
福田のり子
震える肩も、鼻をすする音も、目頭を拭う手も、何も知らない。
福田のり子
アタシがプロデューサーに伝えられる言葉なんて、そう多いもんじゃない。
福田のり子
だから、一言だけ。
福田のり子
だから、一言だけ。どうか貴方に、伝わりますように。
福田のり子
――早いよ。
福田のり子
求めていた未来は、今ここにある。
(台詞数: 25)