福田のり子
―――――『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった』―――――
福田のり子
「うわっ!ホントに着いた……!」
福田のり子
寒い地域特有の民族衣装だろうか。暖かそうな服を身に纏った人々が、こちらを見ている。
福田のり子
「てかさ……ねえ。ここでやるの?本気?」
福田のり子
彼は大きく頷く。
福田のり子
「……うん、分かった。よーし、、、、」
福田のり子
―――事の発端はつい1時間前
福田のり子
郊外での仕事を終えたアタシは、事務所のクリスマスパーティーに向かうべくタクシーに乗っていた
福田のり子
普段なら1時間半もあれば着くぐらいの距離。パーティーには余裕で間に合う
福田のり子
しかし今夜はクリスマスイブ、しかも休日、しかも『この先故障車あり』の電光掲示板
福田のり子
車は道路にビッチリ並んだまま、全く動かない。
福田のり子
「えっと……空からピッケルが降ってきた??なんじゃそりゃ」
福田のり子
ケータイで調べてみても、この渋滞がどのくらい続いているのかイマイチ分からない
福田のり子
バイクに乗った宅配ピザの兄ちゃん達が、車の間を縫うようにタクシーを抜いていく
福田のり子
「今夜はピザの宅配、大変だろうなー。ひと晩中街を回って、ピザ専用のサンタさんって感じ?」
福田のり子
「あーぁ……。アタシの愛車だったら、こんな渋滞、スイスイ横を抜けてくのに」
福田のり子
そんな独り言を呟いていると、1台のバイクがタクシーの横に止まった
福田のり子
コンコン……『福田のり子さんですよね?』
福田のり子
急に窓の外から名前を呼ばれ「そ、そーだけど!?何!?」と素っ頓狂に返す
福田のり子
『私、サンタなんですけど。』
福田のり子
窓を閉じていたから聞き取りにくかったけども、確かにサンタと言った。
福田のり子
『あ、イタズラだと思われても仕方ないですよね。でもサンタなんです。』
福田のり子
また言った……。とりあえず窓を開け、話だけ聞いてみる。
福田のり子
『のり子さんにお願いがあるんです。……あの、一緒に来てくれませんか?』
福田のり子
「いや、でも……このあと事務所でパーティーがあるから」
福田のり子
断る理由そこじゃないだろう、とサイレントセルフツッコミ
福田のり子
『大丈夫です。』
福田のり子
なにがだ。
福田のり子
『ちゃんとパーティーに間に合うように連れていきますから。お願いします一緒に来てください。』
福田のり子
「…………いいよ。」
福田のり子
いいのかよ!
福田のり子
心の中で再びセルフツッコミをしながらも、何故だか、彼の話にノッてみようと思った
福田のり子
とにかくこの渋滞にうんざりしていたし、バイクでここから抜け出せるならなんて考えて
福田のり子
タクシー運転手にここまでの運賃を払い、導かれるまま彼のバイクの後ろに乗る。
福田のり子
『しっかり、捕まっててください。』そう言ってバイクのエンジンをふかした次の瞬間
福田のり子
私達は、空を飛んでいた
福田のり子
「え!?え!?え!?」
福田のり子
空には大きなトンネルがあった
福田のり子
彼曰く、このトンネルはいろんな国を短時間で回るのに便利なサンタ御用達トンネルで
福田のり子
そこを通ればアラ不思議。10分もしないうちに、私は見知らぬ雪国に連れてこられていた。
福田のり子
……この国では今年、悲しい出来事があった。私の役目はそんな彼らの前で元気の出る歌を歌うこと
福田のり子
そう、私自身が彼らにとって「サンタさんからのプレゼント」
福田のり子
やるからには中途半端なことしたくなかったからさ、全力で歌った。ステージと同じように。
福田のり子
そしたらさ、言葉は通じないはずなのに、すっごく嬉しそうに聞いてくれてさ。
福田のり子
誰かに何か伝えるって当たり前のようで、ホントは奇跡的な事なんだなーって、改めて思ったんだ。
福田のり子
あと、帰りのトンネルの中でさ、聞いたんだ。「なんでアタシだったの?」って
福田のり子
そしたらさ『……ファンなんです。』だってさ!アタシ、サンタのファンがいるんだよ!
福田のり子
って気がついたら事務所の目の前。パーティー開始の5分前。ちゃーんと間に合ったんだよ。
福田のり子
で、そのサンタはいつの間にかいなくって……って、え?ホントだよ!
福田のり子
ま、信じる信じないはプロデューサー次第ってことで!
(台詞数: 50)