福田のり子
『おいおい、嬢ちゃん、アンタ本気でそんなこと思ってんのかい?』
福田のり子
原付を運転中に話しかけられたら、誰だって面喰らう。
福田のり子
「俺は、嬢ちゃんとの付き合いはそんなに長くない。でも、アンタのことは知ってるつもりだ」
福田のり子
遅刻しそうなのに、誰なんだろうこの声?あ、事務所!間に合うかも!
福田のり子
『なんだ嬢ちゃん、誰が喋っているのか分かんねぇのか?悲しいねぇ』
福田のり子
クラウザー号を停めると、声が腰の下から響くように頭へと伝わってきた……いや、でも……
福田のり子
『そうだよ、クラウザーだよ!嬢ちゃんがつけてくれたんだぜ、この名前はよぉ』
福田のり子
はぁ……私も疲れてるんだなぁ。帰りはバスと電車にしよう。
福田のり子
『オイオイオイ、薄情じゃねーか?オイ、嬢ちゃん!?オ』
福田のり子
ほら、バイクから降りたら聞こえなくなった。それより遅刻遅刻!
福田のり子
ーーーーーー大丈夫だって!まったく春香も奈緒も心配症なんだから。なんでもないって~
福田のり子
桃子も、分かってるから。悩んでることがあったら話すから。亜利沙もそんな顔しないでさ。
福田のり子
うん!じゃあ、またね。
福田のり子
ふぅ、リコッタでの営業が増えるのは嬉しいんだけど、ただなぁ、私みたいなのが……
福田のり子
『嬢ちゃん、お疲れ!』
福田のり子
……すっかり忘れてた。っていうか、聞き間違いとかじゃなかったんだ。
福田のり子
『勿論よ!漢・クラウザー、嬢ちゃんを送り迎えすることだけが生き甲斐よ!』
福田のり子
仕方ない、このまま乗って帰ろう。病院は明日のオフに行けば大丈夫だよね。
福田のり子
『なんだい嬢ちゃん、体調が悪いのか?だったら、早く帰って酒を呑んで寝たほうがいいぞ』
福田のり子
私は謎の声を無視して、クラウザー号を走らせる。
福田のり子
『なかなか信じてくれないな。もっと素直な子だと思っていたんだが』
福田のり子
……素直とか関係ないんじゃない?
福田のり子
『おっ、やっと返事をしてくれた。嬉しいねぇ』
福田のり子
言っておくけど、私はまだクラウザー号が喋ってるって思ってないからね
福田のり子
『じゃあこれならどうだ。嬢ちゃんがバレンタインの時に言おうとしていた台詞だがコショコショ』
福田のり子
……えっ!?ちょっと何でそんなこと知ってるの??
福田のり子
『そりゃあ嬢ちゃんが運転中にずっとシミュレーションしていたから……って、嬢ちゃん危ない』
福田のり子
えっ!?ってうわあああ(ギャギャギャギャ)あ、危なかったぁ
福田のり子
『急にする話じゃなかった。すまなかった。しかし、これで俺がクラウザー号だって分かったろ?』
福田のり子
まあね。あと、恥ずかしいことを迂闊に運転中に考えちゃいけないことも分かったよ。
福田のり子
『くっくっく……はーっはっは!』
福田のり子
な、なに!?
福田のり子
『いやいや、その顔だよ。嬢ちゃんはやっぱり可愛い』
福田のり子
か、かわいいっていきなり何言いだすの?
福田のり子
『嬢ちゃんが一番分かってるだろ?何で遅刻しそうになったか、レッスンで失敗して心配されたか』
福田のり子
ん……
福田のり子
『自信を持ちな。嬢ちゃんは間違いなくかわいい。さぁ、家に着いたぞ。ゆっくり休みな』
福田のり子
ーーーという話なんだけど。
福田のり子
『それ、怖い話ちゃう!深イイ話や!』『ありしゃは、ありしゃはもう涙で前が見えましぇ~ん』
福田のり子
『ちょっと、亜利沙さんったら、泣き過ぎ』『でも、ホントにいい話だったよね。』
福田のり子
ん~確かに怖い話じゃなかったかもね。
福田のり子
『しっかし、意外やな~。のり子がそんなメルヘンな話をするなんて』『バイクが喋るんでしょ?』
福田のり子
『正確には原チャですけどね』『喋ることが出来るなんて、まさにインテリ原チャだね!』
福田のり子
『春香……、さすがにそれはないで』『うーん、さすがのありさもフォローできませんね』
福田のり子
『春香さん、どういうこと?』『も、桃子ちゃんにはちょっと早いかも』『子ども扱いしないで!』
福田のり子
『インテリゲンチャというのはですね、桃子ちゃんセンパイ』『説明しないでよー亜利沙ちゃーん』
福田のり子
私は、みんなの笑顔を見ながらそっと席を立った。劇場の外に出て、関係者入り口の脇へ歩いていく
福田のり子
「私は、ウソだなんて一言も言ってないんだけど。ま、いいよね?」
福田のり子
私は、クラウザー号を手でパンパンと叩く。
福田のり子
クラウザー号はブルンと大きく音を鳴らした。
(台詞数: 50)