迷走奇譚
BGM
Decided
脚本家
親衛隊
投稿日時
2016-06-01 22:42:13

脚本家コメント
長いです。
桃子は喋りません、あしからず。

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福田のり子
道に迷った。
福田のり子
ツーリングの途中、近道をしようと慣れない林道を抜けようとしたのが仇になったか。
福田のり子
鬱蒼と生い茂る木々に日の光は遮られ、昼だというのに薄暗い。
福田のり子
徐々に狭くなっていく道に不安を覚えつつ走っていると、看板が目に飛び込んできた。
福田のり子
『この先、 有り 者の ず』。
福田のり子
所々錆び付いた文字は、満足に意味を知ることすら出来ない。
福田のり子
だがアタシを恐怖に陥れるには充分過ぎた。こういうのはさっさと退散するに限る。
福田のり子
そう判断し、来た道を引き返そうと振り向いたその時──。
周防桃子
「……」
福田のり子
「──!」
福田のり子
女の子が立っていた。
福田のり子
吃驚仰天どころではない。自分でも聞いたことのない悲鳴が辺りに響き渡った。
福田のり子
しかし女の子は、そんなアタシの所作に動じることなく、何故か手を差し出す。
福田のり子
「え、え……っと?」
福田のり子
恐る恐る、女の子の顔と手を交互に見る。
福田のり子
土で汚れた手、幼くも整った顔立ち、アタシを見つめる綺麗な瞳。
福田のり子
見れば見るほど普通の女の子。むしろかわいいくらいだ。
福田のり子
パニックに陥りかけた頭が徐々に冷静さを取り戻していく。
福田のり子
「あのー、どうしたのかな?」
福田のり子
ここでようやく口を利くという行動に至った。
周防桃子
「……」
福田のり子
だんまり。だが手は差し出されたままだ。
福田のり子
「ん〜、何か欲しいのかな?」
周防桃子
「……」
福田のり子
やはりだんまり。参った、このままでは埒が明かなそうだ。
福田のり子
先刻より恐怖は薄らいだとはいえ、気味が悪いことには変わりない。
福田のり子
さっさと退散したい所だが、まずは退路を塞いでいる女の子を退かす術を考えねば。
福田のり子
「うーん……」
福田のり子
差し出された手は片方だけ、女の子、子供、山、食べ物……。
福田のり子
「あっ、そうだ!」
福田のり子
ポケットを漁る。
福田のり子
「お、あったあった。はい、これ」
福田のり子
キャラメルを女の子の手に乗せた。
周防桃子
「……」
福田のり子
「やー、つい懐かしくなって道すがらコンビニで買ったはいいけど……それ、甘すぎてね〜」
福田のり子
「1粒食べただけでギブアップだったよー。あははっ」
周防桃子
「……」
福田のり子
その時初めて、女の子はアタシから視線を外した。
福田のり子
手の中のキャラメルを凝視し、満足気に微笑んで、お礼も言われた気がした。
福田のり子
そう、あくまで気がしただけ。
福田のり子
女の子の声は、アタシに届くことはなかった。
福田のり子
────
福田のり子
あれから数日、アタシは特に何事もなく日常を過ごしていた。
福田のり子
しかし、どうにも先日の女の子が気にかかって仕方がない。
福田のり子
まあ喉元過ぎれば熱さなんたらだ。アタシは休日を使って無謀にも例の場所へとバイクを走らせた。
福田のり子
日が届かない林道、錆びた看板、更にその先まで──怖さが追いつく前に一気に走り抜けた。
福田のり子
そして、見つけた。
福田のり子
「これって……」
福田のり子
木々の間に隠れるように置かれた古めかしい祠。
福田のり子
その小さな観音扉の向こうに、空のキャラメルの箱が見えた。

(台詞数: 50)