福田のり子
「……ちょうどここらへんかな」
福田のり子
アタシは頭の中の嫌な仮説を確かめに、塔の心臓部分、ちょうど例の空洞の前に来ていた。
福田のり子
その空間がある場所は、周りを壁で囲まれていて、所謂デッドスペースになっていた。
福田のり子
これはあからさまに怪しい、図面を見ながら周りをグルグル歩いていると、ある事に気づく。
福田のり子
この壁の位置、階下までの造りと同じなら、ここに入出口が空いているはずだった。
福田のり子
「……でもここにドアは無い……」
福田のり子
「え!じゃあこの階何の意味があるのさ!誰も何も思わなかったの!?」
福田のり子
あ、そっか。よく考えたらこの付近は用も無く近寄る所じゃ無いか。
福田のり子
もっとも、アタシが本当にここの技術屋さんとかになれば足を運ぶ事も増えるのだろうけど。
福田のり子
それに……皆こういう所はエレベーターで素通りしちゃうんだろうなあ。
福田のり子
ちなみに、ここで言うエレベーターは中央の物資輸送用の物でなく、周りに複数ついてる人用の事。
福田のり子
ちなみにアタシは誰かに会うと具合悪いので、移動用の車とかちゃっちい方の昇降機とかで来たよ!
福田のり子
めっちゃ時間かかったよ!あ、ちなみに研究用の裏IDを使用しているためどこでも自由自在です!
福田のり子
さて、きっとここら辺にあるはずだった入り口は、結構ギリギリで無かった事にされた、と。
福田のり子
そう考えるのが自然な気がしてきた。つまり、ここにあるはずだった物が何らかの理由で消えた。
福田のり子
……アタシの仮説はこんな感じ。
福田のり子
父の何らかの研究が評価されて、父はあの時塔チームに入ることになった。
福田のり子
塔に関する研究施設は世界最高峰、きっとかなり凄まじいスピードで進んだだろう。
福田のり子
そして、塔を動かす動力が発明された時点では、その空間は何かで埋まっていたはず。
福田のり子
しかし、科学者達が消えて、残された設計図にはその物は無くなっている。
福田のり子
きっと、科学者達は設計の段階になって、その物を使うべきで無いと考え……
福田のり子
消されたのでは無く、自分たちから姿を消したんだ。己で生み出した成果を道連れにして。
福田のり子
どうやって政府の目から逃れたのかは分からない。まあ、そこは考える所じゃないか。
福田のり子
何人か亡くなって見つかった人もいるけど、もしかしたら全て闇に葬る為の彼らなりの策だったかも
福田のり子
……なんで、そんな危ないのを研究してたんだろう。
福田のり子
いや、研究させられてた、って可能性もあるのか。
福田のり子
そうだったとしたら、皆で姿を消したのは、塔への最後の抵抗だったのかもしれない。
福田のり子
……父は、あの時アタシを隠そうとしていたのか。他の人の家族の様に、危害を加えられない様に。
福田のり子
ただ、それは失敗した。アタシはこうして塔に連れこまれ、あの人が必死で塔の下に埋めた物を、
福田のり子
掘り起こそうとしているって状況だ。彼は、いったい何を見つけてしまったんだろう。
福田のり子
……とか言って、アタシの中で大体の答えは出ていた。
福田のり子
いつも父の話を聞いていたアタシにしか見当もつかない話だけど。
福田のり子
星の意思は人の意思。そしてその人が創った塔の意思。この生き物の様な歪な科学。
福田のり子
で、人工知能。
福田のり子
……きっと、この塔の心臓は、現在他の部分に必要なエネルギーを送っているだけ。
福田のり子
逆に言えば、必要最低限の行動しか出来ない、言わば原生生物の様な、生きる為に生きている存在。
福田のり子
これを高位の存在にするためには、心臓だけでは足りない。きっとここに脳が必要なんだ。
福田のり子
これ程複雑な機械を動かす脳を創り出すのは難しいだろう。実際父はずっと言っていた。
福田のり子
「私は未だ、人に勝る脳を生み出せてはいない」
福田のり子
これらの情報と、この大きな空間。そして、今まで何故塔に呼ばれたのか分からなかった……
福田のり子
女神様の存在。
福田のり子
これらの情報から考えれば、父達が逃げた理由も、なんとなく分かる。
福田のり子
……アタシはただの技術者であり、その技術に善も悪も無いと考えてる。父の行動は正しい。
福田のり子
そして、アタシがこのまま黙っていれば、そのままこの事は闇に戻り、アタシの責任からは離れる。
福田のり子
この事は一人の技術者の手にはあまる問題で、父の様に逃げる事が正しいのかもしれない。でも、
福田のり子
「あんたには何の思いでもない、忌々しいだけの塔かもしれないけど……」
福田のり子
「もう故郷も家も無いアタシにとっては、この塔だけが、あんたの形見なんだよ……親父」
福田のり子
それに、ここでアタシが逃げても、いずれ誰かが見つけてしまうかもしれない。
福田のり子
そんな事を考えていたアタシはこの時全く気づいていなかった。塔に心を奪われるあまり、
福田のり子
身の丈を超えた高さまで登っていた事を。ここは既に雲を見下ろす、神の領域だった。
(台詞数: 50)