福田のり子
「なるほど、これはとうとうこの危険な相棒に乗る時が来たね」
福田のり子
明らかな敵意を向けた大人たちに囲まれて、アタシは初めてこの凶悪な機械のハンドルを握った。
福田のり子
さて、実はこれは昔の話なんだけど。その時私は人里離れたところで一人。
福田のり子
息を潜めるようにひっそりと暮らしていた。
福田のり子
なぜアタシがここにいるのか。
福田のり子
知っての通り私の父はブームが始まる前からの科学者だった。
福田のり子
そんなおかげもあってか、福田家は所謂お金持ちで、アタシは好きなことをして遊ぶ子供だった。
福田のり子
具体的にはラジコンを速くしたり、お掃除ロボットを速くしたり、時計を速くしたり。
福田のり子
まあ、ちっさい時の話はあんまり関係ないからちょっと早送りすると。
福田のり子
もっと楽しいことが出来ると父が学校にいれてくれて、いつの間にかどんどん学年が進んで。
福田のり子
気付いた時には、大学を首席で卒業していた。まあ、この時代ではよくあることだった。
福田のり子
周りがやりたいことを見つけて色々なところへ巣立って行く中で、アタシは全部に気乗りせず。
福田のり子
街に残り、そのまま今まで通り好き勝手暮らして、現実を見ないように生きていた。
福田のり子
で、次に父について。アタシをこの道に引きずり込んだ父は、あまり家に居ない人だった。
福田のり子
今思えば、アタシはその寂しさを紛らわすために機械を弄ってたのかもしれない。
福田のり子
そんな父が時々家に帰って来ると、土産の代わりにいつもアタシに話をした。
福田のり子
その話とは父の仕事の事であり、関わっている開発の事から独自に研究している夢物語まで。
福田のり子
アタシは父の成した事には素直に感心していたが、
福田のり子
いつも必ず話す、星の意思がどうのこうの、はあまり好きになれなかった。
福田のり子
あの人が苦手なのはそのせいかもしれない。色んな意味で、手の届かない人だったんだ。
福田のり子
そんなある日、しばらくぶりに帰ってきた父はアタシを呼び出してこう言った。
福田のり子
『極秘のためさらっとしか話せないが、ある組織のあるプロジェクトの一員になった。
福田のり子
しばらく家には帰れないから、今できる話はすべて話しておく』
福田のり子
いつにもまして真剣な顔だから何を言いだすのかと思ったら、
福田のり子
普通にいつも通り、現在の仕事についてだった。ただ、その内容は異質だった。
福田のり子
いつにも増して、その研究内容が絵空事だった。理論的には筋が通ってるけど、
福田のり子
その理論自体が小学生、みたいな。一体どこのアホがそんな事考えるのかと。
福田のり子
ただ、父があまりに真剣に話すから、アタシも真剣に聞いていた。最後はSFじみてた。
福田のり子
話し終わると、これは他言無用だと言い、すぐに家を出ていった。一体なんやねんと。
福田のり子
それからしばらくして、そのSFは突如として現実世界に聳え立った。
福田のり子
現代の科学力は、ロマンをそのまま実現できてしまうのか。大変な時代だ。
福田のり子
しかし、もし父の言った事が本当だとすると……
福田のり子
あの塔には、意思があるという事。
福田のり子
……そんなあほな。と思っていた矢先、父からメールが飛んできた。
福田のり子
要約『そこより良い設備がある新居を用意したから秒で準備して引っ越してね』
福田のり子
そんなめちゃくちゃな!と思った瞬間、ハリネズミさんマークの引っ越し屋さんが来た。
福田のり子
考える間もなく引っ越しは進み、次の日には新居に着いてしまっていた。
福田のり子
その新居と言うのがここで、ご近所さんもいない荒野のさらに地下である。
福田のり子
普通なら不満を漏らすところだけど、というか最初は怒鳴りつけてやろうかと思ったけど。
福田のり子
この場所の本気の設備を前にした瞬間、そんな感情は消え去っていた。なんでこんな場所に!
福田のり子
ま、理由なんて後から考えればいいさとここで面白可笑しく暮らしている。というわけ。
福田のり子
「いやーご近所さんもいないから気は楽だし、なんかお金もいっぱいあるし」
福田のり子
「必要な物は注文したらなんか見知らぬトラックが置いてってくれるし、桃源郷かここは」
福田のり子
そんなある日の事、家中に初めて聴くサイレンが響き、厚いドアの外で大きな音がしたかと思うと。
福田のり子
猛烈な爆風とともにドアが玄関ごと吹き飛び、お客様第一号、煙の向こうから現れる黒ずくめの男。
福田のり子
さらにその向こうから現れる赤服の男、ベージュの男、白系統の服にピンク系統のアクセの男。
福田のり子
この組織服装自由っぽい!最初の黒い人がセンス無いだけだ!
福田のり子
と、ここで冒頭に戻る。何か知らないが、とりあえず危険が訪れたらしい。
福田のり子
でも、アタシもこういう時の為に準備はしていた。颯爽とバイクにまたがり、エンジンをかけた瞬間
福田のり子
全身が痛くなるような反動の後、アタシの体は四散するバイクと共に宙を舞った。
(台詞数: 50)