真壁瑞希
「………いた」
真壁瑞希
僕らの星から魔法が消えて、数年が経った
真壁瑞希
まるで、魔法のように
真壁瑞希
町に漂っていた魔素。僕らはそれを魔法に変えて生活のあらゆる場面に活用していた
真壁瑞希
その魔素が、ある日突然消失した。魔法に頼り切っていた生活は、当然のように機能しなくなった
真壁瑞希
人間は夢から覚めたように、当たり前のように、魔法のない暮らしにシフトしていった
真壁瑞希
……僕は、信じたくなかった。魔法使いは、僕の憧れだったから
真壁瑞希
指を鳴らしても火は出ないし、呪文を唱えても緑は豊かにならないけれど
真壁瑞希
人は、なぜ夢を見てしまうのか
真壁瑞希
……人は、僕を笑うだろうか
真壁瑞希
ある日、魔法を使う人物の存在を耳にした
真壁瑞希
本当かどうかわからない。夢物語かもしれない
真壁瑞希
でも、知りたかった
真壁瑞希
もしウソだったら笑ってやろう。そいつと、自分の愚かさを
真壁瑞希
…僕は、洞窟の果てに立っていた
真壁瑞希
『……いらっしゃいませ。』
真壁瑞希
魔法使いは、女の子だった。華奢な体、静かな佇まい。如何にもと言えば如何にも、といった感じだ
真壁瑞希
『何か御用でしょうか?』
真壁瑞希
「魔法を、見せて欲しいんだ」
真壁瑞希
『魔法、ですか。』
真壁瑞希
「うん、使えるんでしょ?」
真壁瑞希
『…使えると言えば使えますが、使えない時には使えません。』
真壁瑞希
なんだそれ、それって魔法なのか?単にこの人が下手くそってだけなのかもしれないけど
真壁瑞希
『ですが、手品は少々。こちらは自信ありです。……見てみますか?』
真壁瑞希
「……うん」
真壁瑞希
焦っても仕方ないし、少しだけ。さっきの言葉も気になる
真壁瑞希
『では、ご覧に入れましょう。拍手〜。』
真壁瑞希
小さな拍手の反響が止むと、魔法使いの手品ショーが始まった
真壁瑞希
手から飛び出す炎、鳥。増えるボールに、消えるトランプ
真壁瑞希
どれも、魔法のようだった
真壁瑞希
どの体験も、新鮮で、驚きの連続で。…そうして、楽しい時間はすぐ過ぎていった
真壁瑞希
『……はい〜。』
真壁瑞希
最後の手品が終わった。また、拍手が洞窟内にこだました
真壁瑞希
『いかがでしたか?……今日は、ミスなし。』
真壁瑞希
「…すごかった。手品なんて久しぶりだったよ」
真壁瑞希
「すごく、楽しかった」
真壁瑞希
『そうですか、私も楽しかったです。好きなことで誰かに喜んでもらえるなら、winーwin。』
真壁瑞希
「………それで、本題に戻りたいんだけど」
真壁瑞希
『魔法なら、もう見せましたよ』
真壁瑞希
「え?」
真壁瑞希
『……笑顔になる、魔法です。』
真壁瑞希
……笑顔になる、魔法
真壁瑞希
『はい。笑顔は、心の中に小さな火をつけてくれます』
真壁瑞希
『じんわりとあたたかくて、はかない火です。』
真壁瑞希
『…それを守るために、私は手品を見せました。』
真壁瑞希
『火は、誰かに守られなければ、燃え続けられませんから。』
真壁瑞希
『……手品、楽しいんでくれて、ありがとうございます。』
真壁瑞希
……ああ、そうだった。魔法って、便利なだけじゃなかった
真壁瑞希
魔法って、こんなに簡単で、僕の思ってるものとは違うけど、当たり前のものだったんだ
真壁瑞希
……僕の中に、小さな火が灯った気がした
(台詞数: 50)