真壁瑞希
目覚めは白い箱の中。
真壁瑞希
周りを見渡せば、壁に張り巡らされた無数のパイプ。
真壁瑞希
視覚良好。
真壁瑞希
1滴、2滴、パイプの隙間からポタポタと零れ落ちる水の音。
真壁瑞希
聴覚良好。
真壁瑞希
微かに香るのは鉄の匂い。
真壁瑞希
嗅覚まで残っているとは……驚きです。
真壁瑞希
狭い空間に塗られた色は、いずれも白。
真壁瑞希
やはり“ここ”も塔なのですね。
真壁瑞希
与えられた第2の生は永遠。
真壁瑞希
さて、これから私は職務を全うしなければなりません。
真壁瑞希
塔の維持管理、頭として各部への指示、セキュリティ……。
真壁瑞希
瑞希、毎日が大忙しだぞ。
真壁瑞希
……。
真壁瑞希
先程から気になっていたのですが、
真壁瑞希
パイプから水が漏れて壁を汚してますね。
真壁瑞希
水が黒いので目立ちます。
真壁瑞希
私は、そっと水に触れてみました。
真壁瑞希
触覚も良好。指先が生暖かい温度を伝えました。
真壁瑞希
これは……。
真壁瑞希
恐らく味覚も生きているでしょう。掬った水を舐めてみました。
真壁瑞希
……血?
真壁瑞希
血、なのですか。
真壁瑞希
いけない。それなら塞がなきゃ。
真壁瑞希
今や、塔に関する全ての知識は私の中にあります。
真壁瑞希
この症状は塔のどこかが怪我をしているのです。
真壁瑞希
ですが、おかしい。エラーが全く見当たりません。
真壁瑞希
数億のデータを数十回見返しても履歴すらありません。
真壁瑞希
結果はオールグリーン。各部へ精密検査を要求しても同じでした。
真壁瑞希
ならば、これは一体……?
真壁瑞希
未だに水は零れ続けたままです。
真壁瑞希
……。
真壁瑞希
働け身体。動くな指先。
真壁瑞希
怪我ならば治せ。機械的思考は言います。
真壁瑞希
しかし、相反する人間的思考が、その意見に異を唱えています。
真壁瑞希
どちらも同じ、私です。
真壁瑞希
……なるほど。ようやく理解しました。
真壁瑞希
塔との一体化に当たり、何故、敢えて人間の余韻を残したのか。
真壁瑞希
感覚を得られるのはメリットでしょう。
真壁瑞希
ですが、これでは機械的な思考……言わば冷徹な判断にも時間を要してしまいます。
真壁瑞希
上はセキュリティにリソースを割くことを嫌がったのでしょうか。
真壁瑞希
そんな訳ないですね。そこまで頭の悪い人達ではありません。
真壁瑞希
恐らく。
真壁瑞希
……七尾さん。
真壁瑞希
あなたは言っていましたね。
真壁瑞希
「塔に夢を持たない彼女ならば、世界を変えられるかもしれない」と。
真壁瑞希
ならば、その思いを汲んで傷は開けておきましょう。
真壁瑞希
いつでもウェルカム、ですよ。
真壁瑞希
……横山さん。
(台詞数: 49)