百瀬莉緒
ある日の帰り道。
百瀬莉緒
それはいつもと変わらない、仕事の帰り道のはずだったのに…
百瀬莉緒
でも、キミと再会してしまったの。
百瀬莉緒
卒業式ぶりだっけ――
百瀬莉緒
キミは、少し気まずそうに照れ笑いを浮かべながらそう言ったわね。
百瀬莉緒
東京の方に出てきていることはお互いに知っていたのよ。
百瀬莉緒
けれど、高校卒業以来、連絡は一切取り合ってなかったの。
百瀬莉緒
高校時代、あれだけ一緒にいたっていうのにね。
百瀬莉緒
キミも私も、それぞれ進みたい道に進むため、卒業を機に別れたのよ。
百瀬莉緒
実際、またこうして会ってみると、話したいことは溜まっているものね。
百瀬莉緒
立ち話もなんだからって、落ち着いて話せる場所に移動をしようだなんて…
百瀬莉緒
少し強引なんだけれど…それでも私もふらっと付いて行っちゃうのよ。
百瀬莉緒
けど、蓋を開けてみれば、それは、なんてことない公園の並木道沿いにあるベンチなんだから。
百瀬莉緒
ふふっ…そういうところ、あの頃からちっとも変っていないのよね。
百瀬莉緒
でも、キミのそんなところ、昔から結構好きよ。
百瀬莉緒
それから、ベンチに腰を掛けて、昔話から、今現在の話まで色々したのよ。
百瀬莉緒
まるで、いままでの空白の時間をなぞって埋めるようにね。
百瀬莉緒
こうしてみると、本当に懐かしいんだから…ほんと感慨深いのよ。
百瀬莉緒
放課後、よくこんな風に校内のベンチで話してたわよね。
百瀬莉緒
あの頃の私とキミは、二人揃って青春を謳歌している高校生だったわよね。
百瀬莉緒
けれどね、私はいまアイドルをしていて…
百瀬莉緒
キミはいま、なにもしていないみたいだった、キミのやりたいことってなんだったのかしら…
百瀬莉緒
思い返せば、あの頃も、それをちゃんと聞いてあげられてなかったわね。
百瀬莉緒
なにかと話をする時には、私の事ばかり、キミは聞き上手で優しい人だった。
百瀬莉緒
今度は私がその役目をしてあげる番なのかしら?
百瀬莉緒
それから、私達は定期的に会うことになったのよ。
百瀬莉緒
会うっていっても、付き合っていた頃に戻るわけじゃなくて…
百瀬莉緒
このベンチに座って、他愛もない話をするだけ…
百瀬莉緒
それだけで、時間は過ぎ去っていくし、それだけで心は満たされていくの。
百瀬莉緒
彼は私の歌の事とかを好きだって誉めてくれたりもする。
百瀬莉緒
元気をあげなくちゃいけないのは私の方なのに、私がキミに元気をもらってたよ。
百瀬莉緒
結局のところ、今回も私が話を聞いてもらってばかりだったのよね…
百瀬莉緒
ある日、急にキミは私を呼び出したの…
百瀬莉緒
大切な話があるって、なんのことかしら?
百瀬莉緒
ひょっとして…
百瀬莉緒
やりたいことを見失っていたけれど、君のお陰でまた見つかったんだ――
百瀬莉緒
ちょっと拍子抜けしちゃうような告白だったけど、そんなことを言われたの。
百瀬莉緒
たぶん、これは彼なりの決意表明、あの頃と同じね。
百瀬莉緒
頑張って。
百瀬莉緒
そう言って、私はキミの手を握ってたの。
百瀬莉緒
応援してる、けど、離したら終わりだって思った。
百瀬莉緒
私は、本当は離したくないから、ぎゅっと力を込めてみるけど…
百瀬莉緒
キミからの握り返しは少し頼りなくて…
百瀬莉緒
たまにこうしてまた会おう―
百瀬莉緒
そんな言葉は嘘だってわかってるから…
百瀬莉緒
頷くけれど、ナミダがこぼれるのよ。
百瀬莉緒
キミの手が、春を待つことなく、私の手から離れていって…
百瀬莉緒
キミは力強く新たな一歩を踏み出して、歩み始めるの。
百瀬莉緒
冬の並木道、決して振り向きはしないキミを、私は見送るの。少し期待したのに…
百瀬莉緒
さよなら、初恋の人。
(台詞数: 50)