一月のセミは夜に鳴く
BGM
Be My Boy
脚本家
nmcA
投稿日時
2017-01-09 02:03:18

脚本家コメント
昼も鳴いてるじゃんとか言わない

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百瀬莉緒
改札口から出て、今日がどういう日かを改めて思い出した。
百瀬莉緒
三連休の中日、しかも夜だというのに背広に着られた男たちがうろちょろしている。
百瀬莉緒
そうかと思えば、髪と化粧だけはばっちりセットされた女性も上気した顔で歩いている。
百瀬莉緒
私にとってはほんの2,3年前の出来事だ。少し微笑ましく思いながら事務所へと歩みを進める。
百瀬莉緒
繁華街へと出ると、その様相はさらにはっきりしてきた。
百瀬莉緒
右からも左からも若い声がひっきりなしに聞こえてくる。
百瀬莉緒
せめてこれが私への声援だったらな、と考えている自分がいて、苦笑いする。
百瀬莉緒
ふと、立ち止まって目を閉じて、耳をそば立ててみた。
百瀬莉緒
「懐かしいなぁ」「そういえば、アイツさぁ」「最近、どうなの?」「単位が全然でさぁ」
百瀬莉緒
「ええっ!あの子、結婚したの」「いいなぁ、いい会社じゃん」「よ~し、もう一軒いこー」
百瀬莉緒
こういうことはやるもんじゃない。俯いたままもう一度苦笑いする。
百瀬莉緒
バッグを持ち直して今度はゆっくり歩きだす。
百瀬莉緒
喧騒のシャワーは止まらない。それでも、私の耳には先ほどの会話がずっと残っていた。
百瀬莉緒
『いいなぁ、いい会社じゃん』
百瀬莉緒
あの頃の私は、その言葉に少し得意気になったものだ。
百瀬莉緒
『いいなぁ、いい会社じゃん』
百瀬莉緒
合コンでいい男見つけるんだから、と豪語してたっけ。
百瀬莉緒
『いいなぁ、いい会社じゃん』
百瀬莉緒
……
百瀬莉緒
……あの頃の私に、今の私はどう映るだろうか。
百瀬莉緒
立ち止まってくるりと振り返る。青春を謳歌する若者たちに目を凝らした。
百瀬莉緒
……
百瀬莉緒
……愚問だったわね。
百瀬莉緒
踵を返し、ヒールの音を立てて道の真ん中を闊歩する。
百瀬莉緒
月が、街灯が、ネオンが、若者たちを照らしている。
百瀬莉緒
若者たちの声は一向に小さくならない。
百瀬莉緒
これから約50年という長い一週間を生きるのだ。
百瀬莉緒
たとえそれが、眩しい光で目がくらんでいただけだとしても、
百瀬莉緒
今日ぐらいは明るい未来を鳴かせてやるのが人情だ。
百瀬莉緒
ひとしきり鳴いた後のセミは、
百瀬莉緒
空へと飛ぶしかないのだから。

(台詞数: 31)