百瀬莉緒
僕には幼なじみがいる。名前は百瀬莉緒。
百瀬莉緒
近所に住んでいることもあり、小中高と一緒だった。
百瀬莉緒
大学は別々となったが、実家に帰ると一緒に御飯を食べることもしばしばだ。
百瀬莉緒
御飯といっても、お互いの家族同士で食べるだけだが。
百瀬莉緒
今年のゴールデンウィーク、いつものように家族同士の食事会が莉緒の家で開かれた。
百瀬莉緒
そこで僕は聞き捨てならない事実を聞いた。莉緒がアイドルになったというのだ。
百瀬莉緒
瞬間、僕はちくわの煮物を落とした。
百瀬莉緒
『ちょっと〜リアクションおかしくない?』
百瀬莉緒
食後、僕は莉緒の部屋でなぜアイドルになろうとしたのかを聞いた。
百瀬莉緒
莉緒はスカウトされたからと言っていたが、なろうと決めた理由はよくわからないと言った。
百瀬莉緒
普段テレビを見ない僕だったが、次の日からテレビを気にするようになった。
百瀬莉緒
すぐにテレビに出るわけないと知っていたが、幼馴染として、気にしてしまう自分が可笑しかった。
百瀬莉緒
五月も終わりが近づき、五月病でのずる休みもできなくなる頃、僕は帰路へとついていた。
百瀬莉緒
時間は九時を回り、周囲は飲み会帰りのサラリーマンであふれている。
百瀬莉緒
人の流れに逆らい、歩いていると、後ろから肩をたたかれた。
百瀬莉緒
『なに、辛気臭いオーラ出して歩いているのよぅ』
百瀬莉緒
莉緒だということは声で分かった。見つかってしまってはしょうがないので、振り向いた。
百瀬莉緒
『なに、鳩が豆鉄砲喰らったような顔してるのよ。ここに私がいることがそんなにおかしい?』
百瀬莉緒
僕は、莉緒の隣の女の子を指さし、小さな後輩をこんな時間まで連れまわしていることを注意した。
百瀬莉緒
『ちょっと!?このみ姉さんは立派な大人よ!しかも私達より年上のね』
百瀬莉緒
僕は二人の酔い覚ましに付き合うためにカフェへ連れていかれた。
百瀬莉緒
『いいのよ。よくあることだし、莉緒ちゃんの知り合いなら許さないわけにはいかないもの』
百瀬莉緒
莉緒からこのみ姉さんと呼ばれた女性は、フルーツジュース片手に僕の非礼を許してくれた。
百瀬莉緒
『むしろ、莉緒ちゃんの近くにあなたみたいな男の人がいることが分かって安心したわ』
百瀬莉緒
言っている意味は分からないが、僕は莉緒が席を外している間に、普段の莉緒の様子を聞いてみた。
百瀬莉緒
『うちの事務所、若い子が多いから、周囲に気を配れる莉緒ちゃんにいつも助けてもらっているわ』
百瀬莉緒
莉緒の面倒見の良さは僕も知っている。自分のことでもないのになんだか照れくさい。
百瀬莉緒
『逆に私から聞きたいんだけど、莉緒ちゃんって、昔から、ああいう感じなの?』
百瀬莉緒
ああいう……?僕の表情から察してか、このみさんは自分のスマホに撮った写真を見せてくれた
百瀬莉緒
……見ているものと記憶の莉緒がつながらない。
百瀬莉緒
『知らなかったということは、昔はこうじゃなかったのね』
百瀬莉緒
お冷をあおる。冷たい水が身体にしみこむのと裏腹に、頭は沸騰しそうなぐらい熱くなる。
百瀬莉緒
『大学は別なのよね。じゃあ、大学でなにかあった……いや、何もなかったからかしら』
百瀬莉緒
『莉緒ちゃんって、中高はそういう浮いた話はなかったの?』
百瀬莉緒
僕は記憶の底を色々と探し回ったが、浮いた話どころか浮きそうな話すらないことに気付いた
百瀬莉緒
『と、なると……そういうことかしらね』
百瀬莉緒
このみさんは、暖かい優しいまなざしで僕を見つめた。
百瀬莉緒
『ちょっと、このみ姉さん、なにセクシーな視線送ってるのよ』
百瀬莉緒
戻ってきた莉緒がこのみさんに絡む。
百瀬莉緒
『うふふ、莉緒ちゃんのことを色々教えてもらっていたのよ』
百瀬莉緒
『え~、何を話していたのよ』
百瀬莉緒
よく見ると、今の莉緒の格好も結構きわどかった。つ、と視線を逸らす。
百瀬莉緒
『ちょっと、なんで目をそらすのよ。男の人はこういうのが好きだって前に言っていたじゃない』
百瀬莉緒
そんなことを言った記憶は、無いと突っぱねたが、莉緒は絶対言ったと譲らなかった。
百瀬莉緒
僕が莉緒と言い争う姿を見て、そっとため息をつくこのみさんの姿が目端に入った。
百瀬莉緒
『ねえ、君はどうして莉緒ちゃんがアイドルになったか分かる?』
百瀬莉緒
このみさんの質問に、僕は、素直にわからないと答えた。
百瀬莉緒
『やっぱりね。』
百瀬莉緒
このみさんは優しいほほえみを携えて、フルーツジュースをストローでゆっくりと吸った。
百瀬莉緒
僕と莉緒はこのみさんの質問の意図が分からずお互いを見ることしかできなかった。
(台詞数: 50)