永吉昴
中学の野球部に入っても、試合に出してもらえず、マネージャーになったオレを見かねた父さんは、
永吉昴
なぜかオレを【アイドルのオーディションに出した】何故だ!!
永吉昴
理由はよくわからんけど、オレみたいなガサツな女と違って、古今東西のカワイイ女子がいっぱい
永吉昴
いてもう……オレはもう自分が恥ずかしくて、恥ずかしくて。
永吉昴
オーディションの最中のことはあんまり覚えてない。確か顔を真っ赤にしてもじもじしてて、
永吉昴
父さんに無理やり着させられたフリルのワンピースのすそをぎゅっと握りしめて、泣きべそかいて…
永吉昴
で、なんだったっけな……「君、特技とかないの?」って呆れ気味に質問されたのにカチンときて、
永吉昴
やけくそになって、野球のエピソードをあれこれ喋りまくったら、いつの間にか受かってた。
永吉昴
「ただいまー」
永吉昴
「ただいまー」 父「どうだった? オーディション。楽しかったか?」
永吉昴
「え? うん、あの……」
永吉昴
「な、なんか。いっぱい、ど、ドキドキしてきた……」
永吉昴
そのときのオレは変な気持ちだったのを覚えている。今までと180度違う環境。緊張と興奮……
永吉昴
すごく、いいな。と想った。久しぶりに想えた。オレは新しいことに挑戦しているんだ。
永吉昴
そう素直に想えたことが嬉しくて……その後、アイドル候補生の話が来た時もすぐにOKしていた。
永吉昴
そして、中学の卒業式の日。
永吉昴
今まで連絡先を知っていても、ほとんど連絡し合わなかったKから電話があった。
永吉昴
「おう、久しぶり」
永吉昴
「おう、久しぶり」 K「お、おう。なんかその、久しぶり……」
永吉昴
(んだよその緊張した感じの声。こっちがせっかく昔と同じように気さくに話しかけたのに~)
永吉昴
K「あの…さ。聞いたよ。お前、高校は地元離れて、東京行くんだって?」
永吉昴
「うん」 オレはアイドルになるにあたって、東京の芸能に強い高校へ進学することになっていた。
永吉昴
K「な、なんでだよ!? なんでそんな急に……」
永吉昴
残念そうな懐かしいアイツの声に後ろ髪を引かれるような気持ちが胸にわき上がる。
永吉昴
K「俺…俺さ……本当はずっと……俺は」
永吉昴
電話越しの声の主は、何かを決意したような感じだった。けれど――
永吉昴
オレはそれを最後まで聞いてしまったら、行けないような気がした。前に進めないような気がして。
永吉昴
「あのさ……オレ――」
永吉昴
「あのさ……オレ――」ごめん、と言おうとしたそのとき。
永吉昴
「あのさ……オレ――」ごめん、と言おうとしたそのとき。「甲子園」
永吉昴
「あのさ……オレ――」ごめん、と言おうとしたそのとき。「甲子園」不思議な返答が聞こえた。
永吉昴
「えっ…?」「お前さ、アイドルに、なるんだろ」「うん」
永吉昴
「だったらさ、俺と一つ勝負しないか」「勝負?」「そう。お前と俺の久しぶりの対決」
永吉昴
妙な提案をされたせいか、オレはさっきまでの引き留められるような不安感はどこかへと消えていて
永吉昴
代わりに、胸の奥からかすかな期待への高鳴りが生まれてきていた。トクン、トクンって。
永吉昴
「た、対決方法は?」「だからさ甲子園だよ。ほら覚えてない? 昔さ、二人で言ってたじゃん」
永吉昴
「甲子園に二人で行って、最高の野球をやろうぜ。って」
永吉昴
…言ってた。確かに言ってた。小学生の頃の、くだらない約束。そんなのあったなって思い出した。
永吉昴
K「俺は選手で、お前はアイドルとして。お互いに有名になって、甲子園でまた会おうぜ」
永吉昴
K「で、互いに甲子園で会えたら…そこで勝負しよう。昔やったみたいに」
永吉昴
K「そんとき、俺がお前からホームラン打てたら……今俺が言おうとしたこと、聞いてくんない」
永吉昴
「うんっ…わかった……」
永吉昴
「うんっ…わかった……」バカだ。コイツは本物の。
永吉昴
胸のドキドキが、どんどん高まっていく。止まらない。そっか――
永吉昴
オレ、コイツのこういうバカな所が好きだったんだな……
永吉昴
― 1年後 ―
永吉昴
左手に握りしめた白球を見つめながら、昨日甲子園で敗れて地元へ帰っていったアイツを思い出す。
永吉昴
「もう1勝出来てたら、オレと会えたのにな。ふふっ、清宮のばーか」
永吉昴
勝負はまたの機会へおあずけになった。ちょっと心の奥で、ホッとしている自分もいる。
永吉昴
「また来いよ。オレ…あたしの球を打ちにさ」そう呟いて、昴は夏の空に大きく腕を振りかぶった。
(台詞数: 50)