永遠をあげる
BGM
嘆きのFRACTION
脚本家
親衛隊
投稿日時
2017-01-13 20:46:18

脚本家コメント
テーマは「ベタに上りも下りも永遠に続く階段に迷い込んだドラマ」。
きさらさんからのお題でした。ありがとうございました!
花っていうのはケシとか、ね。

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七尾百合子
扉を潜ると、そこは闇。
七尾百合子
たとえるなら巨大な筒を立てたような。その空洞の内側に私は居る。
七尾百合子
先日、興奮のあまり鼻血を出しすぎて私は死んでしまった。死んで精神だけの物質となった。
七尾百合子
黄泉の国の閻魔様は大の人間嫌いのようで、
七尾百合子
人間だから、という理不尽極まりない理由で押し込まれたのが、この「牢獄」。
七尾百合子
天国にも地獄にも行けないとか、只の職務怠慢じゃないか!
七尾百合子
と、噛みつきたくなる気持ちを抑えつつ、看守に連れられてやって来た。
七尾百合子
入口の扉は既に閉じられて壁と同化している。無論、取っ手などという便利なものは付いていない。
七尾百合子
壁に触れてみると無数の傷が確認できた。
七尾百合子
救いを求めた罪人達が付けた爪痕だろうか。
七尾百合子
身震いする。
七尾百合子
そこで初めて恐怖を実感する。
七尾百合子
筒の内部は、上にも下にも延々と続く螺旋階段。
七尾百合子
階段は壁に沿って張り巡らされているので、支柱は無く、中央の部分は空洞になっている。
七尾百合子
となると、今私が立つ場所はやや広いスペースが確保されているので俗に言う踊り場だろうか。
七尾百合子
目の前を、私と同じであろう罪人の群れが牛歩の速さで進んで行く。
七尾百合子
皆が皆、一様に上を目指している。
七尾百合子
途中で屈み、斃れ、死屍累々を築き、それを越えて、越えられても尚、上を目指している。
七尾百合子
私よりも下から来る姿もあった。それが罪の基準によるものなのかは知る由もない。
七尾百合子
まあ、何であれ。
七尾百合子
どうせ、この螺旋階段に終わりはない。
七尾百合子
そう考えて壁にもたれかかった時、上から罪人が落下してくるのを見た。
七尾百合子
地面に衝突する音がまったく聞こえない事から、底はかなり深いと容易に推察できる。
七尾百合子
さて、どうしようか。
七尾百合子
飛び降りて最期を待つのも、上を目指して疲労過多で果てるのも勘弁願いたい。
七尾百合子
自己協議の結果、面倒くさいので、その場に留まることが決定した。
七尾百合子
要するに──。
星井美希
「諦めるの?」
七尾百合子
声が降ってくる。
星井美希
「秘密、教えてほしい?」
七尾百合子
場にそぐわない明るい口調。何だろう、この子は。
七尾百合子
そもそも声帯が存在しないから返事もできない。
星井美希
「知りたいんだ。じゃあ教えてあげる」
七尾百合子
強制イベントが発生。
星井美希
「ここはね、生前の世界で“背いたモノ”が集まる場所なの」
星井美希
「簡単に言うと、世界にとっての異分子、または脅威」
星井美希
「だから、次の世界で背けないように、永遠に閉じ込めるんだよ?」
七尾百合子
そう言って彼女は私の手を掴み、
七尾百合子
飛んだ。虚空へ。
七尾百合子
奈落に向かって真っ逆さまに落ちていく体。
七尾百合子
唐突なショッキング体験によって、意識だけを瞬時に失えたのは幸いだった。
七尾百合子
────
七尾百合子
どれほどの時間が経ったのだろう。
七尾百合子
目を覚ますと、そこには花畑が広がっていた。
七尾百合子
見たことのない、奇妙な程のカラフルな花が、あちこちに咲き乱れている。
星井美希
「背いたモノ──それはね、人間の形をしているとは限らないんだよ」
星井美希
「もちろん、この花も」
星井美希
「……君のこと気に入っちゃったから、君には永遠すら忘れられる世界をあげるね」
七尾百合子
その瞬間、何にも形容しがたい幸福感に満たされて、
七尾百合子
空から天使が舞い降りてきた。

(台詞数: 50)