女子、三日会わざれば34『人形』
BGM
マリオネットの心
脚本家
遠江守(えんしゅう)P
投稿日時
2016-11-05 23:32:32

脚本家コメント
残りエンディング2話です。

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周防桃子
「どうして…?」
周防桃子
その姿を見れば、今から美希さんがしようとしていることはわかる。
周防桃子
でも、衣装も音源も、こっちが何を歌うかを見てから用意したなら、絶対に間に合うハズがない。
周防桃子
じゃあ、美希さんは、桃子がこうするって予想してたってこと?
周防桃子
答えがほしくて横を見ると、貴音さんは首をゆっくりと横にふって。
四条貴音
「…いいえ。美希も、桃子がこのような手に出るとは、流石に予想する術も無かった筈です。」
周防桃子
少し考えるそぶりを見せた後、言葉を続けた。
四条貴音
「…自覚は無いかもしれませんが、この度の桃子の成長は、恐ろしさすら覚えるものでした。」
四条貴音
「それは、次々と立ち塞がる断崖を悠々と越える、まさに飛躍と言うに相応しいもの。」
四条貴音
「あの美希でさえ、余裕も見栄も、全てを投げ打って挑まねば危ういとみたのでしょう。」
四条貴音
「結果として、性格も生き様も違う二人が、同じ答えに辿り着くとは…真、面白いものです。」
周防桃子
貴音さんの言うとおりなら、今の美希さんは…。
四条貴音
「…今は、我々も一人の観客となりましょう。」
周防桃子
…そうだね。今となっては、桃子たちにできることは、もう何もない。
周防桃子
美希さんが、向かい側の舞台袖から、ステージへと歩き出した。
周防桃子
その一歩ごとに、まるで波紋が広がるように、桃子が熱した観客が、静まっていくのがわかる。
周防桃子
正面をふり向いた美希さんの顔を見て、観客がはっと息を飲むのが伝わってきた。
周防桃子
ここから見える横顔でもわかる。なんて、悲しげで、せつない顔…。
周防桃子
もし、正面に立って、その目を見てしまったら、桃子はなんと思ってしまうだろう。
星井美希
「…聞いて。『マリオネットの心』。」
周防桃子
ピアノの旋律と共に、口からつむぎ出されたその声は。
周防桃子
ああ…。
周防桃子
まるで、心臓をつかまれたようだった。
周防桃子
切なく、苦しく、胸が痛くなる。
周防桃子
心がはなれてしまった人を、必死につなぎとめようとする歌。
周防桃子
そして、桃子のさっきのステージがあったからこそ、この歌は完全になっていた。
周防桃子
桃子がみんなを夢中にさせて、美希さんがそれを取り戻そうとする。
周防桃子
美希さんは、さっきの桃子が作った世界を、自分の世界に取りこんでしまった。
周防桃子
…千早さんのときと、同じだ。
周防桃子
桃子は、自分の世界を押し出して、観客の心にうったえかけた。
周防桃子
美希さんは、逆に観客の心を自分の世界に引きよせて、のめりこませる。
周防桃子
聞こえてくる。美希さんの声が。行かないでほしいと。自分を見てほしいと。
星井美希
『ミキを…感じて』
周防桃子
深く深く、心の根っこから発した強いものが、桃子と同じ強さで、会場を満たしていく。
周防桃子
そして、逆方向の力がひっぱり合い、つり合ったとき、桃子がそこに見たものは。
周防桃子
それぞれの世界が合わさって生まれるハーモニー。そこから生まれるもっと大きな世界。
周防桃子
美希さんと千早さんの間にあって、桃子が嫉妬したそれが、桃子と美希さんの間にも生まれていた。
周防桃子
…でも、桃子の不意打ちを正面から受け止められたんだから、これは完全に桃子の負けだね。
周防桃子
勝ちを捨てて、さらに負けを認めさせられたのに、桃子の心は素直にそれを受け入れていた。
周防桃子
「…まったく。だまってても勝ちは決まってたのに、やりすぎだよ。」
周防桃子
ぼやいた桃子に、貴音さんが笑いかけてくる。
四条貴音
「アイドルたるもの、誰もが目立ちたがり屋で負けず嫌いと決まっています。」
四条貴音
「美希ほどのアイドルであれば、その度合いも格別ということですよ。」
周防桃子
その言葉がおかしくて、桃子は笑ってしまった。
周防桃子
次は、負けない。ちょうどそう思っていたところで、やっぱり桃子も負けず嫌いだよねと思って。
周防桃子
ううん。桃子と美希さんだけじゃなくて、貴音さんも、千早さんも、春香さんも、他のみんなも。
周防桃子
きっと、これからも、自分や他の人たちのそういうところ、たくさん見ていくんだろうなって。
周防桃子
どんどん大きくなる拍手を聞きながら、桃子はそんなことを考えていた。
周防桃子
…こうして、大会の幕は閉じて。
周防桃子
桃子の長い戦いも、終わった。

(台詞数: 50)