周防桃子
106対68。
周防桃子
目の前のスクリーンに出た数字が、美希さんの勝ちを示している。
周防桃子
でも、桃子には、美希さんや可憐さんが何を歌ったのかもさえ…よく思い出せない。
周防桃子
昨日、あんな形で貴音さんと別れてから、ずっとこんな感じだった。
周防桃子
今こうやって観客席に座っているのだって…なぜだろう?
周防桃子
美希さんのステージを研究したところで、一緒に戦ってくれる人もいないのに…。
周防桃子
そんなことを考えていると、横から声がかかった。
高木社長
「桃子君、少しいいかね?」
周防桃子
社長さんだった。
高木社長
「キミと美希君に話があってね。一緒に話しておきたいから、舞台袖に来てくれたまえ。」
周防桃子
…なんだろう?決勝戦の連絡なら、それぞれに言えばいいのに。
周防桃子
でも、特に断る理由もなかったので、社長さんの後についていくことにした。
周防桃子
舞台袖に行くと、そこでは美希さんがタオルで顔の汗をふいているところだった。
高木社長
「美希君、キミと桃子君に話がある。いいかね?」
星井美希
「…ん。いいよ?」
周防桃子
まだステージが終わって時間がたってないせいか、美希さんにいつもの眠そうな感じはない。
周防桃子
なるほど。社長さんは、美希さんと話をするところが良くわかってるわけだね。
高木社長
「さて、では…。」
周防桃子
社長さんは、ゴホン、とひとつセキ払いをして。
高木社長
「実は、決勝戦の日程が変更になった。」
高木社長
「本来なら、抽選の必要が無いので、明日には決勝を行うはずだったのだが…。」
高木社長
「ここ最近、765プロに大量のクレームが届いていてね。」
周防桃子
ふう、と大変そうに、社長さんが息を吐く。
高木社長
「大会のことが口コミで広がって、決勝の舞台は是非とも見たいという声が多いのだよ。」
高木社長
「そこで、キミたちには悪いが、日時と場所を仕切り直させてもらうよ。」
高木社長
「決勝戦は、大劇場を使いカメラも入れる。その準備の時間を見て、開催は…3日後とする。」
高木社長
「思わぬ大舞台になってしまったが、ファンのためにも頑張ってくれたまえ。」
周防桃子
3日後…。それまでに、今の桃子に何ができるだろう?
星井美希
「うん、いいよ。ミキにまかせてなの!」
周防桃子
一方で、美希さんはまったくプレッシャーを感じてないみたいだった。
周防桃子
しかし、その明るい表情が、なぜか少しだけ不安げに変わる。
星井美希
「あ、でも…。」
周防桃子
次の瞬間、桃子にかけられた言葉は、まるで顔をはたかれたようなものだった。
星井美希
「桃子はついてこれる?」
周防桃子
その言葉が、耳から頭に入って、心にしみ込んでくるまで。じわじわと。
周防桃子
少しの間をおいて、桃子がそれを理解したとき。体が何かにつき動かされていた。
周防桃子
近くにあった機材の箱、その上のものをどけると、まるで踏み台のようにさっとよじ登って。
周防桃子
美希さんを見下ろしながら、桃子は叫んでいた。
周防桃子
「桃子を、なめないで!」
周防桃子
少し驚いた様子の美希さんと、驚きで声も出ない社長さん。
周防桃子
振り向いて二人を後ろにしながら、桃子はその場をはなれた。
周防桃子
…目が覚めた。
周防桃子
美希さんは、桃子をバカにしたのではなく、一緒にステージに立つ相方として心配していた。
周防桃子
ライバルどころか、敵でもない。さっきまでのフヌケた桃子なら、そんな程度なんだろう。
周防桃子
でも、それは貴音さんに出会う前の桃子のそのまんまの姿。
周防桃子
もしそのままでいれば、貴音さんと過ごした時間が本当に無かったことになると、桃子は気付いた。
周防桃子
見てる。貴音さんは、きっと見てる。
周防桃子
桃子にできることは、貴音さんがまちがってなかったと証明することだけ。
周防桃子
負けない。桃子のすべてと貴音さんから教わったすべてで。美希さんにだって。
周防桃子
そう決意した桃子の心には、これまでにないくらいの闘志がめらめらと燃えていた。
(台詞数: 50)