アンタレス・アクトレス
BGM
夜に輝く星座のように
脚本家
nmcA
投稿日時
2016-11-05 21:09:40

脚本家コメント
今日もセンパイは稽古に励む。その目はどこを向いているのか。

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周防桃子
「大丈夫だって、いつも言ってるでしょ。先に帰ってて」
周防桃子
「……まったく仕方ないなぁ。終わったらちゃんと連絡するから」
周防桃子
「はい、はい。じゃあ、お兄ちゃん、お迎えよろしくね」
周防桃子
名残惜しそうにドアから顔を覗かせるお兄ちゃんに手を振る。
周防桃子
「これだけは、私一人でやらないとね」
周防桃子
ジャージとインナーを新しいのに変える。シューズも履き替えた。
周防桃子
\タァン!/ \タァン!/
周防桃子
\タァン!/ \タァン!/「あー…アー…
周防桃子
\タァン!/ \タァン!/「あー…アー…よし!」
周防桃子
両足で飛んで体のバランスを確かめ、声を出して喉の調子も確認した。
周防桃子
スゥッ……
周防桃子
「なんて傲慢な!身の程もわきまえずにそのようなことを!」
周防桃子
外は夜、独りっきりのレッスンルームに私の声が響き渡る。
周防桃子
「許しておけません。衛兵!アレをもちなさい!」
周防桃子
鏡の中の私は誰もいない空間に手を伸ばし指図する。
周防桃子
それでも、私の頭の中にははっきりと槍を持った衛兵が見える。
周防桃子
「我が恩を忘れるものには罰を……」
周防桃子
……私は忘れない。
周防桃子
この世界に入って、最初に受けたこの恩は決して忘れない。
周防桃子
たとえ、道を曲げてアイドルになった今でも。
周防桃子
「おお、かわいいアンタレス、私のために働いてくれるね」
周防桃子
私が舞台演劇に出演したのは1度しかない。
周防桃子
テレビドラマの子役で人気が出始めた頃に入ってきた小さな舞台。
周防桃子
恥かしい話だけれど、私はその舞台を銀幕デビューの踏み台になればいいとしか思っていなかった。
周防桃子
「いいえ、なりませぬ。必ず仕留めてくるのです。あなたの家族が悲しんでもよいのですか?」
周防桃子
冴えないおじさんだと思ってた。
周防桃子
テレビで見たことなんかないし、もちろん映画でも見たことない。
周防桃子
稽古中もへらへらしてるし、真剣さのかけらも感じられない。
周防桃子
なんでこの人がオリオン役なんだろう。もっと適任がいたんじゃないか。
周防桃子
「……分かりました。無事に任務を終えられたなら褒美を取らせましょう」
周防桃子
私が受けた恩、それは身の程を知ることだった。
周防桃子
稽古が始まる。場面はアンタレスがアキレスを刺すシーン。
周防桃子
針に見立てた小剣を、オリオンの背後に突き立てるだけの演技。
周防桃子
簡単だ。さっさとオーケーテイクをもらって、次の仕事の台本を読もうと思ってた。
周防桃子
そして、お母さんとパンケーキ食べようって思ってた。
周防桃子
『そんなんじゃ、俺様は倒せねぇぞ、アンタレス!』
周防桃子
私は……
周防桃子
私は……舞台上で初めて尻もちをついた。
周防桃子
「おお!アンタレス!見事オリオンを倒しました!あなたを夜に輝く星座にして差し上げましょう」
周防桃子
「……はぁ……まだまだ稽古が足りないね」
周防桃子
タオルで汗をぬぐって、水を飲む。
周防桃子
『嬢ちゃん、舞台を舐めちゃいけねぇぜ』
周防桃子
今思い出してもペットボトルを握る手に力が入る。でも、それは正しいことを言われたから。
周防桃子
\タァン!/ \タァン!/「あー…アー…よし!」
周防桃子
「さ、もう一回」
周防桃子
あの舞台以降、おじさんには会っていない。でも、この業界にいればまた会う機会があるだろう。
周防桃子
今の私はアイドルだ。でも、女優・周防桃子を捨てたわけじゃない。
周防桃子
「なんて傲慢な!身の程もわきまえずにそのようなことを!」
周防桃子
私はサソリ・アンタレス。いつの日かオリオンに針を刺す。
周防桃子
来るいつかに備えるために、今日も私は胸に秘めたる針を磨き続けるのだ。

(台詞数: 50)