周防桃子
桃子は、一人考える。
周防桃子
千早さんは、桃子が美希さんと互角に戦える可能性があると言ってくれた。
周防桃子
それは少しはげましになったけど、それと同時につきつけられた事実もある。
周防桃子
もし、桃子が千早さんの言うような『境地』に入ったとしよう。
周防桃子
でも、美希さんも同じようなことができるなら、その差は変わることはないわけで。
周防桃子
『その爪先程の差が断崖となって立ち塞がる。それが勝負事の世界です。』
周防桃子
貴音さんの言葉が、今は桃子にそのままのしかかっている。
周防桃子
…ううん、待って。落ち着かないと。
周防桃子
こんな風に頭の中がぐちゃぐちゃだから、考えをまとめろって千早さんに言われたでしょ?
周防桃子
そう。何をしたいのか。何をすべきなのか。まずは、そこから考えよう。
周防桃子
『貴音さんに桃子のすごいところを見せて、安心して帰ってきてもらう。』
周防桃子
『美希さんに勝って、桃子を無視できないようにしてみせる。』
周防桃子
…うん。この二つはぜったいに外すことができない『桃子のしたいこと』。
周防桃子
貴音さんは、自分が桃子に変な影響を与えてるって思いこんで、桃子の前から消えてしまった。
周防桃子
だから、桃子自身の力と、桃子らしいステージで、そうじゃないって証明しなければいけない。
周防桃子
これは、貴音さんだけじゃなく、春香さんの誤解をとくためにも必要なこと。
周防桃子
…そして、美希さん。
周防桃子
ずっと桃子から遠いところに立っていて、まぶしくて、すごい人で…。
周防桃子
でも、これまで美希さんが桃子のことを、強い興味を持って見てくれることはなかった。
周防桃子
そう。千早さんと向かい合った時の、あの時の目のような感じでは、一度も…。
周防桃子
それがくやしくて、自分がなさけなくて。このままじゃいけないと思った。
周防桃子
『舞台に立つ者を羨みの目で見上げることに耐えられるのならば、それも良いでしょう。』
周防桃子
…ガマンできるわけがない。桃子はアイドルであって、ファンじゃないんだから!
周防桃子
美希さんに勝つ。同じステージに立つアイドルとして。
周防桃子
…よし!これで決まり!『したいこと』はまとまった。
周防桃子
そして、次は『すべき』こと。
周防桃子
『自分のベストを出せるようにする』『それでも残っている差をなんとかする』
周防桃子
…うーん。
周防桃子
自分のベストを出すって、考えてみるとけっこうむずかしいよね。
周防桃子
持ち歌は最初に歌ってしまって。もちろん、それは美希さんも同じことなんだけど…。
周防桃子
他の歌を選ぶにも、美希さんの方が経験があるだけ有利だし…。
周防桃子
社長は平等って言ってたけど、これって、逆にAS組に有利じゃないのかな?
周防桃子
…とにかく、まずは自分の力をできるだけ引き出せる曲を選ばないとね。
周防桃子
そして、それでも残る差をどうちぢめていけばいい?
周防桃子
みんなを驚かせるような歌?でも、『I Want』で意表をついたから、今さらな感じがある。
周防桃子
歌以外…衣装?衣装は別に決まりはないけど、今から歌に合わせて用意するのは間に合わない。
周防桃子
演出?でも、特別なものは小鳥さんに相談する必要があるし、やっぱりこれも時間が足りない。
周防桃子
…ああ、もう!考えることが多すぎるよ!
周防桃子
何か、何かないの?桃子にできることは?もっと、こう、何か…!
周防桃子
……………。…………………。………………………。
周防桃子
…………………っ!?
周防桃子
ふと、思い浮かんだそのアイデアに。自分でもおどろいて。そして桃子は身をふるわせた。
周防桃子
たとえば割り算で24という数字がある。
周防桃子
それが2でも3でも4でも6でも8でも割り切れるように。
周防桃子
そのアイデアは、桃子が出した条件に、ほとんどすべてにあてはまった。
周防桃子
でも、それは…。
周防桃子
…ううん。割り切れない部分は、切り捨てるしかない。
周防桃子
…やれる!桃子は、やれるんだ!
周防桃子
そのアイデアを実現するために、桃子は動き始める。
周防桃子
目指すただ一つの『答え』を手に入れた今、桃子の心も体も、ふしぎなほどに軽やかだった。
(台詞数: 50)