周防桃子
足がもつれる。息が切れる。
周防桃子
…苦しい。苦しいよ。
周防桃子
それでも。それでも、桃子は止まらない。
周防桃子
やっと、最後の最後まで踊りきったところで、その場にしゃがみ込んで。
周防桃子
動きが止まった瞬間、ぶわっと汗が吹き出して、レッスン場の床に、ぽつぽつと汗の粒が落ちた。
周防桃子
ダメ。もう、踊れない。
周防桃子
…それでも。まだ終わりじゃない。終われない。
周防桃子
地面にへたりこんだまま、レッスン場の空間を見つめて、そこに桃子の姿を描いた。
周防桃子
体が動かなくたって、イメージなら好きに動かせるから。
周防桃子
疲れていないベストの自分に、さっきのダンスをもう一回踊らせる。
周防桃子
ステップ、ステップ、ここでターン。
周防桃子
ううん、そのターンはもっとシャープに。それと、手の先がおろそかになってる。
周防桃子
少し休んで疲れがとれたら、ここはもう一度おさらいしないと。
周防桃子
でも、そこから次の流れには自信がある。桃子がずっと練習してきた、一番の見せ場。
周防桃子
うん、大丈夫!これなら…これなら?
周防桃子
…その桃子の隣を。
周防桃子
突然現れた影が、すっと追い越して行った。
周防桃子
動きは同じ。桃子が踊っているものと同じなのに。
周防桃子
ずっとしなやかで、軽やかで、力強くて。
周防桃子
動きのひとつひとつに、華や色気があって。
周防桃子
何より、桃子が自分のイメージを消して、見とれてしまうほど、きれいだった。
周防桃子
その影は、最後まで踊り終わると、ついっと身をひるがえして、そのまま消えてしまう。
周防桃子
…一度も、こちらを見ることはなかった。
周防桃子
もう、そんなことを、何度も、何度も…。
周防桃子
くやしさと、自分の力の足りなさがいやというほど桃子を打ちのめして。
周防桃子
人前ではけっして流さないって決めていた涙が、汗と混ざって流れていく。
周防桃子
胸でまじったぐちゃぐちゃの感情が、桃子の口から言葉をしぼり出した。
周防桃子
「…勝ちたい。」
周防桃子
「あの人に、勝ちたいよ…!」
周防桃子
「美希さんに…!!」
(台詞数: 30)