周防桃子
……曇っちゃった。
周防桃子
今年も織姫様と彦星様は会えなかったんだね。
周防桃子
七夕ってなんで梅雨の時期にあるのかな。意地悪だよね。
周防桃子
短冊って、織姫様に見てもらうために書くんだって。
周防桃子
曇ったら、きっと叶わないね。
周防桃子
…………。
周防桃子
……ねえ、お兄ちゃん。
周防桃子
星、今日は見えないけれど。
周防桃子
桃子ね、あれは穴なんだって思ってた。
周防桃子
カラスが鳴くとね、壁が降りてくるの。
周防桃子
ぼんやりとしてて、何を考えてるのか分からないような、そんな不気味な壁。
周防桃子
その壁がお日さまの光を遮って、真っ暗な夜になる。
周防桃子
でもね、お空に住んでるおじいちゃんが壁を壊してくれるんだ。
周防桃子
大丈夫だよ、今助けるからねって、声がするの。
周防桃子
だからあれは穴なんだって思うことにした。そこから光が溜まって、朝になるんだって。
周防桃子
変だよね。まるで自分に言い聞かせるみたい。
周防桃子
……その通りなんだ。言い聞かせてた。
周防桃子
ひとりの夜が……怖かったから。
周防桃子
星の見えない夜は、枕をぎゅっと握ってたんだ。
周防桃子
……今? 怖くなんかないよ。
周防桃子
桃子の側にいるのがお兄ちゃんの仕事でしょ。忘れたの?
周防桃子
本当にダメダメなお兄ちゃん。なんにも分かってないんだね。
周防桃子
ねえ、だからちょっとだけ……。
周防桃子
手、握ってもいいかな。
周防桃子
…………。
周防桃子
……ありがと。
周防桃子
じゃあここからは独り言だから。盗み聞きしないでよね。
周防桃子
…………。
周防桃子
桃子ね、きのう短冊書いたんだ。
周防桃子
今年こそ、お父さんと、お母さんと……って。
周防桃子
ちゃんと織姫様に見えるように、高いところに結んだよ。
周防桃子
でもね、今朝見たら、雨でぐちゃぐちゃになってた。
周防桃子
それでもと思って、きれいに伸ばして、もう一回結んできた。
周防桃子
……結局、曇っちゃったね。
周防桃子
…………。
周防桃子
……はい、おしまい。もういいよ、お兄ちゃん。
周防桃子
お天気は残念だったけど、七夕は来年もあるから。
周防桃子
来年こそは晴れて、星がお空いっぱいに広がって……。
周防桃子
そしたら次は、きっと会えるよね。
(台詞数: 39)