周防桃子
収録からの帰り道、迎えの車の窓から、振袖姿の女の子が見えた。
周防桃子
そういえば、今日は成人式だったんだ…。
周防桃子
振袖か…。やっぱり、女の子は、振袖だよね。
周防桃子
桃子も遠い先のことじゃないし、そろそろ作っておくのも悪くないかも。
周防桃子
今度のオフは、お兄ちゃんを呉服屋に連れて行こう。
周防桃子
そんなことを道々考えているうちに、車は劇場に着いた。
周防桃子
報告のためにオフィスへ行くと、新人のアイドルに何やら語りかけてるお兄ちゃんの姿。
周防桃子
ま、トラブルだって代わりの迎えの人を寄越したから、想像はついてたけどね。
周防桃子
…後輩の子の表情、よく知ってる。尊敬と信頼とほのかな恋心ってやつ?
周防桃子
この数年間何度も見てきたし、もしかしたら昔の自分もこんな感じだったかもしれない。
周防桃子
お兄ちゃんは世間的には、トップアイドルを何人も育てた伝説的プロデューサー。
周防桃子
同時に、優しい言葉で女の子をたぶらかす、女たらしでもある。
周防桃子
と、見せかけて、実際はアイドルを育てることに全てを向けた、真正のアイドルバカなんだよね。
周防桃子
女の子を惚れさせるくせに、本人的には無自覚だから、本当にたちが悪くて困るんだけど。
周防桃子
「…ただいま。」
周防桃子
桃子が声をかけると、驚いて二人がこちらを振り向いた。
周防桃子
ごめんなさい、と呟いて部屋を出て行く後輩の子。…別に、そっちには怒ってないのに。
周防桃子
怖い先輩って思われてるのかな?面倒見はいいつもりなんだけど。…今度から気をつけないとね。
周防桃子
さて、それは置いといて、問題は残ったもう一人の方。
周防桃子
桃子の怒りを感じてか、お兄ちゃんも神妙に桃子の言葉を待っている。
周防桃子
「お兄ちゃん、何度も言ってるけどさ…。八方美人もいい加減にしてよね!」
周防桃子
「あれくらいの歳の子なんて、世間知らずだから、優しい言葉をかけるとすぐに勘違いするよ?」
周防桃子
まあ、その最たる人がここにいるんだけど。
周防桃子
「いいオジサンがそんな軽いことばっかりやってるから、お嫁に来てくれる人もいないんだよ?」
周防桃子
まあ、いざとなったら桃子がお婿さんにもらってあげても…いいか。
周防桃子
「今まで自分のした事がどれだけ迷惑になったか、胸に手を当てて反省してよね!」
周防桃子
胸に律儀に手を当てるあたりは可愛げがあった。
周防桃子
でも、そこに何の痛さも痒さも思い出せないような顔をするので、またそれが腹が立つワケで。
周防桃子
…まあ、説教はこれくらいにしておこうかな。
周防桃子
どうせ言ったって直らないのは、桃子はよく知ってる。
周防桃子
それに、この最強のアイドルバカの隣の席は、最強のアイドル周防桃子が守っているんだし、ね。
周防桃子
そこに立ち続けるには苦労の連続だし、ライバルも多いけど、それは仕方ないかな。
周防桃子
そこはなんとかの弱みってやつで。
周防桃子
何だかんだで長い付き合いだから、最近はお互いに考えていることがなんとなくわかるし。
周防桃子
夫婦みたいなものかな…。
周防桃子
…頭の中のこととはいえ、照れくさくなってきたので、桃子はさっきの思いつきを口に出す。
周防桃子
「そういえば、今日は成人の日だよね。振袖の子を見かけたんだけど。」
周防桃子
と、水を向けてみた。でも…
周防桃子
振袖着たいの?仕事作ろうか?返ってきた言葉はそんな感じで。
周防桃子
前言撤回!こういうところは全然ダメなままだよね!
周防桃子
「そこは『桃子もそろそろ成人か』とか『今度振袖仕立てに行く?』とか言うところでしょ!?」
周防桃子
本日最大の怒りをもって、お兄ちゃんの腕をつねりあげてやった。
周防桃子
…そんなこんなで、何か変わったような変わらないような。
周防桃子
でも、何の負い目もなく、気負うこともなく、自然に笑って、泣いて、怒って、嫉妬して…。
周防桃子
桃子は、今日もお兄ちゃんと共にある。
(台詞数: 45)