胸の熱傷
BGM
ココロがかえる場所
脚本家
遠江守(えんしゅう)P
投稿日時
2015-01-10 12:30:34

脚本家コメント
古い作品を見てくださる方がいらっしゃるので書いてみましたが、わかりにくい私のお話しに需要があるのかどうか。
1/12に対となるお話し「時は優しく…」を投稿しました。
台詞数44です。

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周防桃子
「お兄ちゃん、今日も、いい…?」
周防桃子
桃子が言うと、お兄ちゃんは困ったような笑いを浮かべなら、それでも部屋に入れてくれた。
周防桃子
遠くにロケに行く場合、夜遅くに戻るよりはと、泊まりになる場合がけっこう多い。
周防桃子
そんなとき、桃子はこっそりとお兄ちゃんの部屋に行く。
周防桃子
「桃子が眠くなるまで、お話しに付き合ってくれない…?」
周防桃子
そう頼めば、ほとんど断られることはなく、桃子を部屋に入れてくれるようになった。
周防桃子
お話しするのは、特別なことなんて何もない、たあいのない話ばかり。
周防桃子
友達や学校のことのような、普通のことばかりだけど、お兄ちゃんは熱心に聞いてくれる。
周防桃子
そして、桃子が楽しくやっていると言うと、自分のことのように喜んでくれた。
周防桃子
そうやって、楽しい時間はすぎて、少し眠くなった桃子は一つあくびをした。
周防桃子
そんな桃子の様子を見て、お兄ちゃんは自分の部屋に戻るようにと言う。
周防桃子
口ではうんと答えるけど、眠そうなまばたきと、さびしそうな目でお兄ちゃんにアピール。
周防桃子
…今日はうまくいったみたい。
周防桃子
お兄ちゃんはあきらめたように、手のひらでベッドをポンポンと叩いた。
周防桃子
…桃子はお兄ちゃんと向かい合って寝る。
周防桃子
狭いベッドなのに、お兄ちゃんの体は桃子からはなれている。近寄っても、またはなれてしまう。
周防桃子
桃子も無理には近づかない。あまりしつこいと、部屋に帰されるかもしれないし。
周防桃子
だから、桃子はせいいっぱい首をのばして、お兄ちゃんの胸におでこをくっつけるようにした。
周防桃子
甘えていると思っているのか、これぐらいならお兄ちゃんは許してくれる。
周防桃子
桃子に、お兄ちゃんの胸の体温がパジャマごしにじわじわと伝わってきた。
周防桃子
そして、その温もりが桃子の心をざわざわとさせる。
周防桃子
…こうしていれば、いやでもわかっちゃう。
周防桃子
こんなに…誰よりも近くにいるのに、桃子はお兄ちゃんの特別な人にはなれないって。
周防桃子
お兄ちゃんの心臓はゆっくりと動いている。桃子の体温だって、伝わっているはずなのに。
周防桃子
たとえば、これがあずささんなら?千鶴さんなら?貴音さんなら?
周防桃子
ううん。美希さんでも、雪歩さんでも、可憐さんでもいい。
周防桃子
…きっと、お兄ちゃんの心臓は、今の桃子とおんなじようにドキドキするはず。
周防桃子
お兄ちゃんにここまで近づけるのは、やっぱり桃子が子供なんだからだと思い知らされる。
周防桃子
呪いっていう字が、口に兄って書くのを知ったとき、桃子は本当にそのとおりだと思った。
周防桃子
自分のことをお兄ちゃんと呼ぶ女の子を、恋人や結婚の相手に選ぶ人はいないよね。
周防桃子
もし、桃子が「お兄ちゃん」って言うのを止めて、自分の気持ちを伝えて…
周防桃子
桃子が大人になるまで9年。待っててくれるのかな…?
周防桃子
でも、それは桃子のわがまま。お兄ちゃんには、自分の好きな人を見つける自由があるんだから。
周防桃子
それは、桃子がお兄ちゃんを好きなこととは別のこと。お兄ちゃんは9年も待つ必要はない。
周防桃子
…いいよ。桃子はじゅうぶん幸せだから。
周防桃子
アイドルやるのは楽しいし、友達も信頼できる人もたくさんできたから。
周防桃子
これ以上なにもいらない。お兄ちゃんも今までどおりにそばにいてくれればそれでいいよ。
周防桃子
そう自分に言い聞かせながら、桃子はお兄ちゃんに気づかれないように、そっと涙を流した。
周防桃子
それでも。それでもまた。
周防桃子
こんなにも切ないのに、こんなにも苦しいのに、桃子はここへ来てしまう。
周防桃子
それは…
周防桃子
桃子の温もりの記憶が、消せない傷あとのようにお兄ちゃんの胸に残ればいい。
周防桃子
そして、桃子の温もりがなくなったとき、そこにさびしさと痛みを覚えればいい。
周防桃子
いつか本当にこの胸に抱かれる人が、その傷あとに気づいて苦しめばいい。
周防桃子
…そう、想って。

(台詞数: 45)