周防桃子
打合せなんて嘘。でも、桃子はお父さんの笑顔の嘘を見抜けなかった。
ジュリア
その相手が、あの……?
周防桃子
それが一応不祥事ってなって、あの女も担当をはずれて、桃子もその番組を降板して。
周防桃子
ちょうどよかった。お母さんひとりになっちゃったから、桃子一緒にいてあげなきゃって。
周防桃子
子供向けの番組に出たら、おんなじスポンサーにあたっちゃうと思ったし、
周防桃子
だから、あんまりお仕事入れずに、お母さんのためにいっしょうけんめい……。
周防桃子
…淋しくないようにって……桃…子………いっしょうけんめい……。
ジュリア
オヤジさんの笑顔を…そうか。
周防桃子
毎日ね、鏡の前でなんどもなんども練習して、それで。
周防桃子
あの日。半年も経ってなかった。突然。
周防桃子
『その笑顔で…わたしを見ないで……もう…見な…見……な…っ』
周防桃子
『見るなぁぁぁっ!』
周防桃子
『見るなぁあぁぁぁっ!』
周防桃子
『見るなぁあぁああぁぁぁっ!』
周防桃子
テレビのリモコンや、台本や、桃子の載ってる雑誌や、載ってない雑誌や、マグカップ…
周防桃子
いろんな物が飛んできて、桃子、ちょっとケガして、気がついたら病院で寝てたの。
周防桃子
お母さんは、別の病院に入院したって。
周防桃子
『しばらく会わないほうが、お母さんの具合がよくなるよ』って。
ジュリア
ああ…。
周防桃子
お母さんには、桃子が伝えたかったことが伝わらなかった。
周防桃子
桃子は、それを演じることができなかった。
周防桃子
それで…女優は、もう無理って。
ジュリア
………。
周防桃子
おかしいな。
周防桃子
なんで…ジュリアさんが泣いてるの?
ジュリア
…モモの分だ。
周防桃子
え……?
ジュリア
お母さんの傍にいてあげて、お母さんのためにがまんして、笑ってたモモの分の涙だ。
周防桃子
……桃子、泣いてよかったのかな。
ジュリア
ああ。
周防桃子
泣いていいのかな。
ジュリア
ああ。
周防桃子
ジュリアさん。
ジュリア
ん?
周防桃子
…だっこして。
ジュリア
これでいいか?
周防桃子
ん…ぎゅって。
ジュリア
うん。
周防桃子
ジュリアさん。
ジュリア
なんだ?
周防桃子
桃子、いいアイドルになれるかな?
ジュリア
モモは、一人前のアイドルだ。ファンを笑顔にして、仲間のことも笑顔にして。
ジュリア
だから、自分のことも大切にしてやんな。
周防桃子
ジュリアさん。
ジュリア
なんだ?
周防桃子
ジュリアさんの言ってること、嘘じゃないってわかる。
周防桃子
……がと…。
ジュリア
モモ…。
(台詞数: 48)