ジュリア
モモ、どうしたんだよ。急に血相変えて。
周防桃子
ジュリアさんの嘘つき。桃子、顔色なんか変えてないよ。
ジュリア
じゃあ、変わらな過ぎなんだよ。
ジュリア
写真集に載ってそうな最高の微笑みのまんま会釈だけして、そそくさと出てきちまって。
ジュリア
……知り合いなのか?スポンサーの、お菓子メーカーの課長だっけ、あの女の人。
周防桃子
『桃ちゃんは、お父さん似ね』いろんな人からよく、そう言われたの。
周防桃子
『ちょっと首を傾げて笑うところなんか、そっくり!』って。
ジュリア
うん?
周防桃子
桃子って、ほら、幼稚園に入る前から現場に入ってたから、オトナの人には慣れっこだったでしょ?
周防桃子
オトナの人の嘘だって桃子すぐにわかっちゃってたし。
周防桃子
でも、お父さん似かお母さん似かなんて、仕事にとってはなんの意味もないじゃない?
ジュリア
意味が…ないって。
周防桃子
あ、違うの。オトナが嘘をつく必要もないような、他愛のない会話っていうか。
周防桃子
だからかな、『桃ちゃんは、お父さん似』桃子、そう言われるのが嬉しかったのかも。
周防桃子
その時だけは、ほんとに得意気に返事してた。と思う。わざと首を傾げたりなんかして。
周防桃子
うんって。「うんっそうなの♪ 」って。
周防桃子
帰ったらお父さんにも報告したりしてね、「今日ね、マネージャーさんがね～」って。
周防桃子
「でもさ?お父さんは桃子よりお母さんのが好きだから、桃子、お母さん似がよかったかなあ?」
周防桃子
なんて。そしたらお母さんも、
周防桃子
『お母さんね…お父さんと愛しあって結婚したのよ。
周防桃子
そうしたら、お父さんによく似たかわいい赤ちゃんが、桃子が生まれてくれて。
周防桃子
だから、お母さんもお父さんも、桃子のことが、ほんとうにほんとうに大好きよ』
周防桃子
って……ええと、なんの話だったっけ。
ジュリア
子役の頃の…いや、いいよ。続けて?
周防桃子
ドラマなんかと違って、子役がメインのバラエティだと、レギュラーの撮りは土日が多くて、
周防桃子
お父さんがね、よく来てくれてたの。
周防桃子
そしたら、またみんなが、『桃ちゃんは、お父さん似』って。
周防桃子
番組プロデューサーからスタイリストさんまでね。笑っちゃうでしょ?
ジュリア
……いや。
周防桃子
笑っちゃうの!そのたびに、桃子また首を傾げて笑って見せて。
ジュリア
なに、それって。
周防桃子
そう、さっきジュリアさんが写真集に載ってそうって言った、あの顔!
周防桃子
あのスポンサー、なんて言ってたかな。そう、
周防桃子
『あの娘があの顔するだけで、視聴率取れるんでしょ?もっとやらせらんないの?』
周防桃子
桃子もプロだし、それが必要ならそうするよ。
周防桃子
でも番組はみんなで作るものでしょ?ほかの子達だって、みんないいとこがあるの。
周防桃子
だから、みんなに「ごめんね」って。「番組こわしちゃって、ごめんね」って。
ジュリア
モモ……。
周防桃子
でも視聴率って、そんな甘いもんじゃないからね。どこ見てもおんなじ顔じゃあね。
周防桃子
桃子もすっかり飽きられちゃうし。
周防桃子
で、番組の視聴率が下がったら、オトナって、撮影より会議のほうが長くなっちゃうんだよね。
周防桃子
現場で何の役にも立たないような偉い人たちは、来なくなっていいんだけど。
周防桃子
でも、お父さんまで、偉い人と打合せがあるからって、桃子撮影のあとひとりで帰るようになって。
周防桃子
そのうちお父さんは、ほんとうに家に帰ってこなくなった。
(台詞数: 44)