ジュリア
歌を歌い終わると、大きな拍手が響き渡る。
ジュリア
たったひとりの観衆だけど、いまのあたしにはそれだけで十分だ。
ジュリア
いつか、大勢の観客の前で音を紡ぐ日が来たとしても…
ジュリア
目の前にいる一人の観客との距離感。
ジュリア
胸に滾る想い。音を通じて、心を通わす喜び。
ジュリア
この気持ちを忘れないようにしたい。
ジュリア
そうしなくちゃいけないんだ。
ジュリア
あたしは、余韻に浸っていた。
高木社長
「素晴らしい!!いやいや、感動した」
ジュリア
目の前の男は、涙を流していた。
ジュリア
あたしの声は、歌は、音色は、この男の心に触れたみたいだ。
高木社長
「キミに聞きたい事があるんだがね」
ジュリア
「なに?」
高木社長
「歌は好きかね?」
ジュリア
「好きじゃなきゃ、ここにはいない」
ジュリア
「好きじゃなきゃ、こんなことしてない」
高木社長
「素晴らしい」
高木社長
「その答えを待っていたんだ」
高木社長
「私はキミのような子をずっと探していていたんだ」
ジュリア
「どういうことだ?」
高木社長
「実は、とある事務所を経営していてね」
高木社長
「キミ、デビューしたくはないかね?」
ジュリア
この人がずっとあたしを探していたように…
ジュリア
あたしはこの誘いをずっと待っていた。
ジュリア
「ほんとにいいのか!?」
高木社長
「ああ、勿論だとも」
高木社長
「やりたいという気持ちがあれば、それだけで十分さ!」
ジュリア
「やりたい」
ジュリア
「あたしの歌を、たくさんの人に届けたいんだ」
高木社長
「キミなら必ず届けられるはずだ」
高木社長
「それで…キミ」
ジュリア
「なんだ?」
高木社長
「名前はなんというんだね?」
ジュリア
「あたしの名前!?」
高木社長
「キミ、デビューするからには、名前が必要だとは思わないかね?」
ジュリア
「そうだな。あんたの言う通りだ」
ジュリア
「あたしの名前は…」
ジュリア
あたしの名前は、喉をつっかえて出てこない。
ジュリア
言わないといけない、けれど、言うことは出来ない。
ジュリア
いったらもう引き戻せなくなる。
ジュリア
それがわかっていたから…
ジュリア
きっと、自信がなかったんだとおもう。
ジュリア
掴みかけた夢の続きを、寺川優梨愛として見る自信が…。
ジュリア
「ないんだ」
ジュリア
「わるい…やっぱ言えない」
高木社長
「そうか…」
高木社長
「名前を言いたくない事情はなんとなくわかったんだがね」
高木社長
「私としてもみすみすキミのような才能の持ち主を逃すわけにはいかなくてね」
高木社長
「こうしないか?」
高木社長
「新しい名前を見つけてきなさい。」
(台詞数: 50)