ジュリア
彼女は海の畔で迎えを待つ。
ジュリア
明くる日も、明くる日も…
ジュリア
たとえどんなに海が荒れ、波が唸ったとしても…
ジュリア
同じ場所で、じっと待ち続けていた。
ジュリア
それが待ち惚けだと気づいてしまっても…
ジュリア
彼女にとってその約束は絶対だった。
ジュリア
揺るぎのない確信があったとしても、吹き荒れる潮風と荒波は容赦なく彼女を襲う。
ジュリア
それでも彼女は淡い希望を胸に抱き、水平線の彼方に沈み行く太陽に祈っていた。
ジュリア
明くる日も、明くる日も
ジュリア
たとえ野次馬に冷たい言葉と石を投げ込まれたとしても
ジュリア
彼女の心は折れることはなかった。
ジュリア
誰もが待ち人が来ることはないと口を揃えていたとしても…
ジュリア
彼女は必ず来てくれると言い張った。
ジュリア
寧ろ、ここに姿を見せない人物の身を案じて、祈祷をする日々が続いていた。
ジュリア
それは自身を安心させる為の一種の暗示にしかならないとしても…
ジュリア
彼女にはそれにすがるしかなかったのだろう。
ジュリア
いつしか彼女はこの身すらも捧げると言い出していた。
ジュリア
哀れんだ人が説得を重ねても、彼女の耳には届かない。
ジュリア
もうダメかもな…
ジュリア
港町に住む漁師の子供達が、冷やかしにいった日に、彼女はぼそりとそう呟いたという噂がたった。
ジュリア
その噂が流れ始めた頃から、彼女の姿を見た者はいない。
ジュリア
彼女に迎えは来たのだろうか。
ジュリア
それとも…
ジュリア
次第に身体は朽ちていくように、自信が剥がれ落ち、ついには波に浚われてしまったのだろうか。
ジュリア
真相は誰の口からも語られない。
ジュリア
あれから二十年経ち、港町は過疎化が進み、すっかり錆び付いてしまった。
ジュリア
その町に一人の老人が訪れた。
ジュリア
老人はぼろぼろになった身体に鞭を打って、ある場所へ赴いた。
ジュリア
そこに案内をした若者が、昔話を思い出したかのように、その老人に聞かせてやった。
ジュリア
とある女の話を。
ジュリア
すると老人はその場に膝から崩れ落ち…
ジュリア
随分待たせてしまった…申し訳なかった、と呟いて…
ジュリア
シワだらけになった顔を更にくしゃくしゃにして、泣き続けたんだ。
ジュリア
彼女にずっと渡すはずだった指輪は、胸ポケットから落ちて、そのまま波に連れていかれる。
ジュリア
やっと迎えにこれたんだってな。
(台詞数: 35)