ジュリア
「はぁ...これで何社目だっけ...。」
ジュリア
あの日から数ヶ月が経ち...季節はすっかり冬になっていた。
ジュリア
クリスマスに大晦日、受験勉強となにかと忙しい時期にあたしも巻き込まれている。
ジュリア
...とは言っても高校には行く気はさらさらないし、仕方なくという感じだけれど。
ジュリア
─『素直になんなよ、自分の中身と向き合って、考え直してみるんだな。』─
ジュリア
「ちっ...!! ...またかよ...。」
ジュリア
あの時の...ヤツの声と表情があたしの頭の中でフラッシュバックされる。
ジュリア
あたしを見る失望したような目は恐ろしくて...何よりも悔しかった。
ジュリア
...気持ちが見透かされてるようで...アイツの言ってたことを否定できなかったから。
ジュリア
...ロックシンガーでなくてもいい...確かに、歌なら何でもいいのかもしれない。
ジュリア
...だけど、それはあたしらしさを捨てること...自分を否定することだ。
ジュリア
「...お前はどう思うよ。 教えてくれないか?」
ジュリア
背中のギターケースの中に問いかける。 もちろん、答えるはずなんかない。
ジュリア
「そうだよな...ちょっと待ってろよ。」
ジュリア
適当に荷物を置ける場所に移動して、あたしは相棒を自由にしてやった。
ジュリア
「相棒...お前の声を聞かせてくれよ。」
ジュリア
あたしはギターに小型のアンプをつなぎ、ストリートの準備を始める。
ジュリア
こうして演奏するのも久しぶりだ...少し肩慣らし程度...と思った時だった。
高木社長
「やぁ...キミはストリートミュージシャン...なのかい?」
ジュリア
いきなり50近いオッサンが初対面のあたしに向かってフランクに声をかけてきた。
ジュリア
あたしは弾く寸前で手を止め、男を見た。 ...ナンパとかそういう線ではなさそうだ。
高木社長
「ああ、すまない。 私はこういう者だ。 決して怪しいものではないよ。」
ジュリア
「『765プロダクション社長 高木順二郎』...知らないな。」
高木社長
「ううむ...我々の業界では知らない者はいないと善澤君からは言われていたのだが...」
ジュリア
...知らねえよ。 あたしはまだその業界に入ろうとしてる身なんだからよ...
ジュリア
「んで? そこの社長のアンタがあたしに何の用だ? なるべく短めで頼むよ。」
高木社長
「はは、せっかちだねぇ。 まだまだ若いんだから時間は沢山あるというのに。」
高木社長
「私がキミに話しかけたのは、他でもない。『ティンと来た』からなんだ。」
高木社長
「つまり、キミをスカウトしに来た...ということなのだが...大丈夫かね?」
ジュリア
...
ジュリア
...どういうことだよ。
ジュリア
「...それで、あたしをスカウトしに来た理由ってヤツは?」
高木社長
「『ティンと来た』からなのだよ。 唐突にね。」
ジュリア
「...なんつうあいまいな理由なんだ...。」
ジュリア
この男...なぜあたしをスカウトするのか...全く意味がわからなかった。
ジュリア
「とりあえず...検討させてください。」
ジュリア
あたしは適当にあしらい、その場を立ち去ろうとした時、その男に呼び止められた。
高木社長
「待ってくれ、せめてこれだけでも持っていってくれ。」
ジュリア
高木順二郎が出したのは765プロの推薦用紙...みたいなものだった。
高木社長
「そこに書いてある番号に電話をかければ、キミは晴れて765プロの仲間入りだ。」
高木社長
「もし...自分の夢を叶えたいなら...。 いい返事を待っているよ。」
ジュリア
「...なんか変なオッサンだったな。」
ジュリア
でも不思議と腹が立たない。 どうしてかはわからないけど...。
ジュリア
「とりあえず...内定はゲットなのかな?」
ジュリア
あたしはその紙を鞄に入れ、家への道を急いだ。
ジュリア
この一枚の用紙が、あたしの人生を決めることになるなんて、その時は知るよしもなかった。
(台詞数: 46)