情熱の火種
BGM
Thank You!『アイドルマスター ミリオンライブ!』テーマソング
脚本家
遠江守(えんしゅう)P
投稿日時
2017-02-16 00:45:32

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高木社長
汗にまみれながら、私はハンマーを振るう。
高木社長
一打ちごとに地面に打ち込まれていく看板と、雑居ビルの一室。空き地の中にあるテントの舞台。
高木社長
そして、綺羅星のごとき才能を秘めた、アイドル候補生たち。
高木社長
それが、私の最後の仕事と決めた、ささやかな劇場のすべてだった。
黒井社長
「…おい。」
高木社長
突然の背後からの声に振り返ると、そこには見知った、嫌となるくらいに知っている顔が。
黒井社長
「聞いたぞ、高木。貴様、また性懲りもなく人を集めているらしいな?」
高木社長
耳が早い。いや、大手プロダクションの社長ともなれば、誰かしらが注進に来るのだろう。
高木社長
「久々に、良い娘たちを見つけてね。」
黒井社長
「…そうか。ならば、一度だけ言おう。」
黒井社長
「その連中を、私の許へ寄越せ。全員、一流のアイドルに育ててやる。」
高木社長
…ああ。変わらないな、黒井。そして、私も…。
高木社長
「悪いが、その話は断らせてもらうよ。」
高木社長
いつもならば、黒井が悪態を吐いて、そこで話は終わりのはずのやり取りだったが。
黒井社長
「…高木!私も貴様も、もう若くはない!いつまで、夢に拘り続けるんだ!?」
高木社長
それは、訣別したかつての友の、傲岸の仮面を投げ捨てた、精一杯の懇願だった。
高木社長
しかし、私はそれに答えず…応える勇気を持たず。
高木社長
彼の姿が遠くに消えるまで、その場に無言で佇むしかなかった。
高木社長
…気を取り直して、作業を再開する。
高木社長
若くはない、か。その通りだ、黒井。お前はいつも正しい。
高木社長
「待て、黒井!お前はこんなところで、彼女の才能を使い潰そうというのか!?」
黒井社長
「埋もれていくより余程ましだ。人は一度でも輝いた記憶があれば、それを頼りに生きていける。」
高木社長
…あのやり取りから、彼との訣別から、どれだけの月日が流れただろう?
高木社長
アイドル戦国時代の黎明期に業界に立ち。この手で歴史を作り上げてみせると誓って。
高木社長
そして、老いを感じ始めた今もなお、その夢は叶ってはいない。
高木社長
私も黒井も、それを成し遂げるには、何か一つ足りないものがあった。
高木社長
おそらくは、自分たちに欠けたものが解らない限り、また同じ結果に辿り着くのだろう。
高木社長
それが認められず、夢を諦めきれない。不器用な頑固者が私か。
高木社長
自嘲と共に湧き出たむなしさと無力感が、体から力を奪っていくようだった。
高木社長
テントに目をやる。アイドル候補生たちが、未来を信じてレッスンに励む、その場所に。
高木社長
たどたどしいが、一生懸命だけは疑いのない、その歌声。
高木社長
しばらく聞き入って、ふと気が付くと。テントの傍に見覚えの無い人物が、立っているのが見えた。
高木社長
…不審者か?若い娘さんたちを預かっているのだ。注意して過ぎるということはない。
高木社長
しかし、その顔を見た瞬間、私は胸を突かれるような衝撃を受けていた。
高木社長
テントから聞こえてくる歌声に、じっと耳を澄ませている。
高木社長
その表情は、楽しんでいるような、安らいでいるような、愛おしんでいるような。
高木社長
そして、まだ何物でもない彼女たちの歌を、誰よりも真剣に聞いていた。
高木社長
…その衝撃は、驚きと喜び、そして羨みをもって、私の中を駆け巡り。
高木社長
この若者は、私が失って久しい情熱を胸に秘めているのだと、確信して。
高木社長
私は、新たな可能性を、見出したのだった。
高木社長
今目の前にあるのは、志を共にできるものとの、運命の出会い。
高木社長
きっと、この新たな情熱は、彼女らを照らし温める、灯火となるだろう。
高木社長
彼に、私が築いてきた全てを見て、共に歩み、受け継いでもらいたい。
高木社長
たとえ、私は最後まで見届けることができなくとも。
高木社長
私の想いが、その血肉となって生き続けていくならば、それで良い。
高木社長
その連鎖がある限り、どんな夢だって、終わることはない。
高木社長
私の最後の情熱のひとさしは、若き情熱の火種となれば、それで良い。
高木社長
それは、去りゆくものだけが手に入れることができる、永遠と希望の結実だった。
高木社長
「…黒井、歳をとるのも、存外悪くないぞ?」
高木社長
心の中で友に呼びかけながら。一世一代のスカウトを敢行すべく、私は一歩を踏み出したのだった。

(台詞数: 50)