黒井社長
いきなり呼び出して何の用事だ…高木。
高木社長
ああ、来てくれたのか。すまないな、黒井。
黒井社長
礼などいらないから用件をさっさと話せ。私は貴様とは違って忙しいのだ。
黒井社長
む…?もしや、貴様の傍らに置いてある、小汚い植木鉢が用件と言うのではないだろうな。
高木社長
よく分かったじゃないか。これはうちのアイドルが育てている、ハーモニーコスモスと言うんだ。
黒井社長
ハーモニーコスモス?まさか、あのうさん臭い伝説にあるアレというのではないだろうな。
高木社長
黒井のいう通りだよ。心を震わせる話を聞くと成長するコスモスだ。
黒井社長
はっ!バカバカしい。そんな世迷言、誰が信じるというのだ。
高木社長
世迷言とは言うが、現にアイドルたちが話をして、芽が顔を出しているからな。
高木社長
マスターもいくつか話をしてくれて、実際に成長するのを目の当たりにしている。興味深いだろう?
黒井社長
ほう…ならばこの私自ら、王者の話を聞かせてやろうではないか。光栄に思え、コスモスよ。
高木社長
【シュン…】…聞く前から萎れてしまったな。
黒井社長
マスター、ハサミを寄越せ!この生意気で無礼で失礼で礼儀知らずな雑草を刈り取ってくれる!!
高木社長
お、落ち着け黒井!マスターも、黒井を押さえつけるのを手伝ってくれ!!
高木社長
――――――――――。
高木社長
なあ、黒井。私たちと植物と言えばアレを思い出さないか?
黒井社長
…アレ、だと?あの鉢植えの事か。
高木社長
ああ。私たちが初めて担当したあの子が、嬉しそうに買ってきた鉢植えだよ。
高木社長
あの子の初めてのステージが成功に終わったときの祝いに、あの子自ら買ってきて…。
黒井社長
『事務所に彩りを加えましょう!』だったか。王者に彩りなど不要と言ったはずだったのだがな。
高木社長
『私たちの記念の品ですよ』って言って、あの子はとても大切に育てていたな。
黒井社長
…鉢植えがどんどん成長するにつれ、アイドルとして伸び悩んでいたのはなんの皮肉だったか。
高木社長
それは私たちのプロデュースが技量不足だっただけで、鉢植えに罪はないさ。
黒井社長
技術不足だったのは貴様の方だろう。絆だの結束だの、甘い事ばかり言っていたからだ。
高木社長
おいおい…。人は、人との繋がりがないと生きてはいけない…いや、こんな問答はどうでもいいな。
高木社長
私と黒井が袂を分かち、あの子が引退した時。三人で鉢植えを株分けしていたのを覚えているか?
黒井社長
…私はいらないと言ったのだが、無理やり押し付けられたアレか。
高木社長
この前、あの子から連絡があったよ。『今年も綺麗に花が咲いた』と喜んでいた。
黒井社長
……。
高木社長
私も、分けてもらった株を社長室で育てているのだが、立派に開花したよ。
高木社長
黒井が持って帰った株はどうなったか、ふと気になってな。
黒井社長
…まさか、そんなくだらない事を聞くためだけに私を呼びつけたというのか?
高木社長
このコスモスを見せるついでにな。で、どうなったんだ?
黒井社長
…安心しろ、私が育てているのだ。この私に見合った、セレブで豪華な大輪を付けている。
高木社長
……おお。
黒井社長
何だ、その気のない返事は。まさか、枯らせたとか思っていたわけじゃないよな?
高木社長
いや、あの頃のお前なら捨てていてもおかしくないと思ったからな。意外に思ったんだ。
黒井社長
…ふん。一応、忌々しい存在ではあるが、私の未熟さの証と戒めとしてとってあるだけだ。
高木社長
ははっ。それはよかった。
黒井社長
…その腹の立つ笑いは何だ。何がおかしい。
高木社長
なにもおかしくはないさ。ただ、あの鉢植えを大切にしているのが分かったからな。
黒井社長
大切に…だと?何を寝ぼけたことを言っている。忌々しいといったばかりではないか。
高木社長
忌々しいとは言っているが…それでも、黒井が好む、大きな花が付くまで育てたのだろ?
黒井社長
っ!!いちいち癪に障るやつだ!
高木社長
ははは…おや?
黒井社長
…なんだ。まだ何かあるのか。
高木社長
いや、このコスモスにも黒井の根幹にある優しさが伝わったみたいでな。成長しているよ。
黒井社長
……。
黒井社長
……ふん。マスター、このコスモスに最高級の水をやってくれ。
(台詞数: 49)