高木社長
静かな店内を人工の光が包む。
高木社長
強い雨足のせいか客は少なく、そのわずかな客も立ち去る気配はない。
高木社長
各々が本や新聞を手に取り、時折気付いたようにカップを傾ける。
高木社長
机に置かれた熱いコーヒーはまだ飲めそうにない。
高木社長
この間にもコーヒーは自らの熱によって酸化され、風味を損なっていくだろう。
高木社長
だが別段コーヒーを嗜好するでもない自分を思い出し、興味を失った。
高木社長
急ぐ理由もない。どのみち雨は止まない。
高木社長
鞄から文庫本を取り出す。周囲の客に紛れ込むように。
高木社長
そしてこれは夢なのだと、思い出した。
高木社長
──────。
高木社長
とても大きな機械だった。
高木社長
時代遅れの蒸気を噴き上げ、黒光りする体をぬらぬらと動かした。
高木社長
擦れ合う鉄が軋み、音を立てる。
高木社長
それが何のために存在するのかは見当もつかず、ただ、存在していた。
高木社長
そういうものだと思った。
高木社長
──────。
高木社長
紫の色鉛筆が好きだった。
高木社長
12色セットの缶を開き、紫色を掴んで、そればかりを使っていた。
高木社長
その頃、私の周りには好きなものがたくさんあった。
高木社長
犬も、雑草も、友だちも好きだった。だから同じ紫色で描いていた。
高木社長
ある時それを先生に指摘された。
高木社長
ぜんぶ紫で描いたら区別がつかないでしょう、と。
高木社長
その日、私は紫の色鉛筆を捨てた。
高木社長
──────。
高木社長
○○が火を使っている。
高木社長
食材を切ろうとして刃物を探している。
高木社長
ナイフは私の手元にある。光を斥ける鈍い輝き。
高木社長
手渡そうと思った。近付く私に気付き、○○は慈しむように微笑む。
高木社長
私はナイフの柄を向けて差し出した。
高木社長
○○が手を伸ばす。突如、予感に背筋がわななく。
高木社長
私はこのナイフを持ち替え、○○の腹部に突き立てるつもりではないのか。
高木社長
そうして○○を、傷付けるのではないか。
高木社長
悲鳴が鼓膜を揺さぶる。急速に狭まる、視界のなか、ただ、白、いや違う、判らない。
高木社長
──ありがとう。
高木社長
刃物は、私の手を離れた。笑顔の○○が立っており、鳥肌が静まっていくのを感じた。
高木社長
○○が離れていく気配を感じながら目を閉じる。
高木社長
刃物を握ると、ときどき自分が判らなくなる。
高木社長
その時自分が考えていること、次の行動が読めない。ただ過ちを犯さぬようにと願うだけだ。
高木社長
──────。
高木社長
「私にとって、君は救いなんだ」
高木社長
「なにも君に助けて欲しいってわけじゃないよ、ただね」
高木社長
「『私が君に救われる』という道を、私は私の力で歩む」
高木社長
「君にはそれを見届けてほしいんだ」
高木社長
──────。
高木社長
目を覚ますと薬が散らばった。卓上に置いたまま眠り込んでいたらしい。
高木社長
頭がひどく痛む。手探りで薬を搔き集める。
高木社長
ともかくこれを飲まねばならないと、まとまらない頭で考えて口に放り込んだ。
高木社長
じきに眠気が訪れ、意識を失うように目を閉じた。
(台詞数: 48)