黒井社長
子供の頃の話
黒井社長
夜中、私がたまに目を覚ますと
黒井社長
父はよく、一人寂しそうに晩酌をしていた
黒井社長
そんな父の姿を見て、私は眠気眼を擦りながら尋ねる
黒井社長
「どうしてそんなに寂しそうにお酒を飲んでいるの?」と
黒井社長
すると父は言う
黒井社長
「いずれわかる、子供のお前がわかるわけがない」と
黒井社長
悲哀にも満ちた表情で、淡々とそう言い放つ父の姿を今でも鮮明に憶えている
黒井社長
当時の私には、父の言葉の意味も、真意も、到底理解することができなかった
黒井社長
理解はしたかったが、私には疑問符しか浮かんでこなかった
黒井社長
私は、父に子供のお前には理解できないと、そう断言されて悔しかった
黒井社長
いや、寧ろ、父に言われた言葉が完璧に的を得ていたからこそ、悔しかったのだ
黒井社長
だが大人になってから、父の言葉を理解できる様になった
黒井社長
子供の頃、あれだけ目を輝かせて見ていた景色やモノは
黒井社長
いまではもう、どうでもよくなってしまっている
黒井社長
きっと、見ている景色は全くもって同じ景色なのだろう
黒井社長
だがそれを(景色)、死んだ魚のような目で見つめてしまっている私がいる
黒井社長
人間関係においても言えることだろう
黒井社長
子供の頃は泥んこ塗れになりながらも、校庭を友人たちと駆け回った
黒井社長
周りの大人に怒られても、次の瞬間には友達たちと顔を合わせて笑いあった
黒井社長
友達に会えない休日の夜には、友達が恋しくなって
黒井社長
学校に行くのが待ち遠しくなった
黒井社長
それだけ、友達と一緒にいるのだが楽しかったのだ
黒井社長
だが今は違う
黒井社長
ひとりで過ごす休日が恋しくなる
黒井社長
人間関係など、煩わしいものでしかないと感じてしまうようになった
黒井社長
嫌な事があった時には、ひとりになって、酒でものみながら
黒井社長
思い出に浸るのだ
黒井社長
小さな頃の思い出はそのどれもが眩しいくらいに輝かしく、そしてなにより楽しかった
黒井社長
思い出になった一時はどれも、まるで線香花火のように一瞬で過ぎていった
黒井社長
本当に一瞬だった
黒井社長
そして、その一瞬の輝かしい思い出達に、大人たちは永遠に縋って生きていくのだ
黒井社長
そう、私のように・・・
黒井社長
子供の頃はどうだった?
黒井社長
思い出に浸る暇などなかった
黒井社長
いや、思い出を振り返るのに時間を割くくらいなら
黒井社長
思い出を作る事に時間を割いていたのだ、それくらい夢中だった
黒井社長
大人たちに「もう帰ってきなさい」と止められるまでは、とにかく無我夢中だった
黒井社長
そして、家に帰ってからは、日記帳にその日の思い出を一言で綴っては
黒井社長
次は、友人たちとどんなことをしようかと
黒井社長
白紙の未来図を描いては高まり、胸を躍らせたものなのだから・・・
黒井社長
大人になるとは残酷なことだ
黒井社長
子供の頃には持ち合わせていた純真さ、無垢さは失われていくのだから
黒井社長
気付いた時には、その感覚は既に失くなっているのだから
黒井社長
そう、今日は子供の日
黒井社長
街に繰り出せば、子供達がはしゃぎ駆け回る姿も
黒井社長
楽しく騒いでいる声も聞こえてくるだろう
黒井社長
だが私はこうして独り、酒を煽って、思い出に酔う
黒井社長
ここは悲しみ通り悲しみ番地
黒井社長
大人にしかたどり着けない場所
(台詞数: 50)