四条貴音
汗に濡れた衣装を脱ぎ捨て、新たな衣装を身に纏いながら。
四条貴音
わたくしは、着替えの為の小部屋に置いてあるもにたあを、じっと見つめていました。
四条貴音
次の試合。それは、この一連の大会の、全ての試合の中で、最も意味を持つ一戦となるでしょう。
四条貴音
その演者として舞台に立った響と美希。その佇まいは、美しさと共に威厳さえも感じさせます。
四条貴音
春香が勝負の方式を尋ねれば、二人共、一切の迷いを感じさせぬ表情で。
我那覇響
「フェスで。」
星井美希
「フェスを選ぶの。」
四条貴音
快活な響も、まいぺーすな美希も。言葉少なに答えます。
四条貴音
…高木殿も、人が悪い。この場に立つ者で、真っ向勝負から逃げる者など居りましょうか?
四条貴音
二人の視線は、遠く離れたステージにありながらも、互いの目をしかと捉えていました。
四条貴音
わたくしのみならず、この戦いを見守るアイドルには、覚えがあるのではないでしょうか。
四条貴音
このとおなめんとの始まり、その初戦の、美希と千早の気迫のせめぎ合い、それに似ていると。
四条貴音
アイドルの三要素…ぼおかる、だんす、びじゅある。
四条貴音
ぼおかるの究極が千早、びじゅあるの究極が美希とすれば、だんすの究極は響と言えるでしょう。
四条貴音
豪快さこそ真に譲りますが、女性らしいしなやかさと軽捷な動きは、他の追随を許しません。
四条貴音
そして、その身の内から無限に湧き出るような律動が、観衆を惹きつけ魅了するのです。
四条貴音
美希を天才とすれば、響もまた天才。千早に次いでその前に立ち塞がった、最強の敵でした。
四条貴音
ぶつかり合う闘気と闘気が収束し…
星井美希
「…『追憶のサンドグラス』。」
我那覇響
「『Rebellion』!」
四条貴音
…二人が口火を切って、その意地を賭けた戦いが始まりました。
四条貴音
美希は、万華鏡の如き煌めきで、見る者を自分の世界に引き込み。
四条貴音
響は、観客を巻き込むだんすで、自分の世界を会場の隅々まで広げて。
四条貴音
見せ場という名の攻防は幾度も繰り返され、人々を熱狂の渦に巻き込んでいきました。
四条貴音
おそらくは、ファンが今日一日で最も楽しんでいるのは、この二人の戦いではないでしょうか。
四条貴音
計算され、限られた力ながら、精密に組み立てられた攻防は、熟達した棋士のよう。
四条貴音
その仕草、その表情、その歌声を一手一手の駒として、棋譜を織り成す様は、まさに圧巻です。
四条貴音
力技で盤面をひっくり返したわたくしや桃子とは比べ物にならない、極上の試合のあり方でした。
四条貴音
それにしても…恐るべきは響です。
四条貴音
彼女が美希との対決を選んだ時、誰もが思ったでしょう。何故、あえて強敵を選ぶのかと。
四条貴音
しかし、ここまでの流れを見れば、その慧眼に唸るしかありません。
四条貴音
『危険人物』のわたくしや桃子は、響の一手によって、反対側の山に誘導されました。
四条貴音
次に、動きの読めない北上麗花も、琴葉に押し付けることに成功しました。
四条貴音
結果的には、麗花は力を使い果たし、わたくしや桃子も、決勝の場では同じようなものでしょう。
四条貴音
その一方で、響と美希は力を配分し、温存することができたのです。
四条貴音
この響と美希との一戦を実質的な決勝戦として、頂点までの道が綺麗に描れていま
四条貴音
ただし、言うは易し、です。
四条貴音
それが近道と認めたとしても、最も険しい山から進む者などは、滅多にいるものではないでしょう。
四条貴音
その心は、勇気を超えて果敢の一言。
四条貴音
響の果敢さと、美希の王者の矜持が火花を散らし、美しく舞台を煌めかせます。
四条貴音
…しかしながら、わたくしはその勝負を、最後まで見ることはありませんでした。
四条貴音
二人の戦いが終われば、すぐに次の…その時を迎えるのですから。
四条貴音
わたくしは、今も激しい応酬が続く、決戦の舞台から目を逸らし…。
四条貴音
正道を歩むこの二人のいずれかが、栄光を掴むことを、ただ嬉しく思いました。
四条貴音
さあ、参りましょう。
四条貴音
わたくしと桃子の並び立つ場所に。
四条貴音
壁の大鏡に映るは、わたくしの最後の衣装と、決意の格好。
四条貴音
小さな偶然から始まり、強く固く結びついてしまった、わたくしたちの物語に終止符を。
四条貴音
終わらせるのであれば、せめて美しく彩りましょう。
四条貴音
…そう、決めたのです。
(台詞数: 50)