高槻やよい
「明日は旬のなすびを使ったリーズナブルなお料理を紹介しますね。お楽しみに!」
馬場このみ
落ち着いた元気な声で、カメラに向かってぺこりとお辞儀をするやよいちゃん。
馬場このみ
以前はトレードマークだった二つ結びも、今ではバレッタで留めたセミロングヘアー。
高槻やよい
顔を上げて髪をかき上げ、手を振り微笑む姿には以前のあどけなさが微塵も感じられない。
中谷育
「やよいさん、お疲れ様です!」
馬場このみ
収録が終わり、スタジオ端に歩いてくるやよいちゃんを育ちゃんが元気に迎え入れる。
高槻やよい
「育ちゃん、私の収録どうだった?バッチリだった?」
中谷育
「はい!今度、私も作ってみたいって思いました!」
高槻やよい
「ホント!それじゃあ、このあとうちに来ない?余った材料ももらっちゃったし」
馬場このみ
なるほど、スタジオ隅のキッチンスペースに積まれた尋常じゃない量のキュウリはそれか。
高槻やよい
「もちろん、プロデューサーもどうですか?」
馬場このみ
「ええ、ご一緒させてもらうわ。でも、その前に……」
馬場このみ
私はそっと手を掲げた。
馬場このみ
「チーフといつもやっているんでしょ?」
中谷育
育ちゃんとやよいちゃんは顔を見合わせ、にっこり笑って頷いた。
高槻やよい
「いきますよー、はい、たーっち!」
中谷育
「いえい!」
馬場このみ
手と手の重なる変わらない音がスタジオの一角に響いた。
高槻やよい
「それで、話って何なんですか?収録が終わったらって言ってましたけど」
馬場このみ
キュウリを袋に詰めながらやよいちゃんが小首をかしげた。
馬場このみ
「実はね……」
馬場このみ
私は育ちゃんの方向性について、やよいちゃんの活動が参考になるんじゃないかと説明した。
高槻やよい
「え、えーっと、私なんかで役に立つでしょうか」
馬場このみ
「私と律子ちゃん、亜利沙ちゃんの見立てではね」
中谷育
「私もやよいさんとはなんとなく親近感があるので。ぜひお話を聞きたいです」
馬場このみ
やよいちゃんはほっぺに手を置いて天井に視線を泳がせる。
高槻やよい
「……ごめんなさい。よく分かんないです。やれるお仕事を一生懸命やってきただけだったし」
中谷育
「そう、ですか」
高槻やよい
「育ちゃんもお仕事を一生懸命やるだけじゃダメなの?」
中谷育
「ダメです!」
馬場このみ
あまりに強い声に私たちは思わず育ちゃんの顔を見る。
中谷育
「あ、ごめんなさい。その……私、ちゃんとした立派なアイドルになりたいから」
馬場このみ
ここまで言って、別にやよいさんが立派じゃないわけじゃなくて、と慌てて育ちゃんが釈明する。
高槻やよい
「分かってるよ。育ちゃんは真面目でいい子だから。でも、どうしましょうか、プロデューサー」
馬場このみ
そうねぇ、と頭を掻いたとき、ふとあることに気付いた。
馬場このみ
「やよいちゃんって、このお仕事、長いわよね」
高槻やよい
「この仕事って……お料理番組ですか?確かにアイドルを始めたころからやってますけど」
中谷育
「私もやよいさんといえばお料理番組のイメージがあります」
馬場このみ
「これよ、育ちゃん!」
中谷育
私の興奮した声に2人はきょとんとしている。
馬場このみ
「育ちゃんが今まで一番やってきた仕事って何?きっとそこにヒントがあるはずよ!」
中谷育
「えっと……なんだろう。私、一つの仕事というよりたくさんの種類の仕事をやってきたから」
高槻やよい
「育ちゃんは、何でもできるからね」
中谷育
「でも、演技のお仕事は多いかも。舞台もドラマも、声優もやったことあるし」
高槻やよい
「あとは、私と同じでお料理番組もやってたでしょ。お料理さしすせそ、楽しかったよね」
馬場このみ
「なるほど……。事務所でそのあたりを中心に調べてみるわ。ありがとう、やよいちゃん」
中谷育
私が腰を上げると育ちゃんの口から「あっ」という声が漏れた。
馬場このみ
やよいちゃんと一緒に育ちゃんを見ると恥ずかしそうに笑っていた。つられて私もくすりと笑う。
馬場このみ
「……もちろん、やよいちゃんの家で晩御飯を食べてから、ね」
(台詞数: 49)