中谷育
波の上をかもめが飛んでる。
中谷育
朝焼けで燃える空の下。
中谷育
裸足じゃ冷たい鉄板の上。
中谷育
お腹まで響く汽笛の音。
中谷育
出航する船に、大きなあくびでごあいさつ。
中谷育
ぼうじつ、早朝。
中谷育
今日の天気は、晴れのち元気。
中谷育
「さあ、今日も頑張ろー!」
中谷育
ブリキのバケツとデッキブラシを抱えて。
中谷育
カラカラと引きずり、赤く錆びたドアの前。
中谷育
むぅ、このドアわがままだ。
中谷育
少し前に磨いたばかりなのに。
中谷育
海が目の前にあるせいで。
中谷育
風を浴びて、すぐ錆びて。
中谷育
また磨いて、また錆びて。
中谷育
開ける前から開かないドア。
中谷育
意味がないと思うけど。
中谷育
意味があるかもしれない、そんなドア。
周防桃子
こんこん。
中谷育
おや、向こうからノックの音が聞こえるよ。
中谷育
「はーい」
中谷育
今日一番の声でごあいさつ。
周防桃子
「もう、早く起きすぎだよ」
中谷育
なんとびっくり、開かないドアの横から桃子ちゃん。
中谷育
なぜなら、ドアの横に壁がないのです。
中谷育
「うん。だって、今日は最後の日だから」
周防桃子
「そだね」
中谷育
「だから、いーっぱいお掃除しようと思って」
周防桃子
「……賛成」
中谷育
──それは、小さな工場の小さなお話。
中谷育
都会に「うるさい」と怒られたわたしたち。
中谷育
歌を歌いたいわたしと、劇の練習をしたい桃子ちゃん。
中谷育
出会って、びっくりして。
中谷育
すぐに仲良くなったよね。
中谷育
ときにはケンカもしたけれど。
中谷育
でも、今は楽しいよ!
周防桃子
──それは小さな「劇場」の小さな話。
周防桃子
桃子たちには広すぎた秘密基地。
周防桃子
今度は、もっと広いステージで。
周防桃子
みんなに歌と声を届けるの。
中谷育
「……暗くなってきたね」
周防桃子
「うん」
中谷育
「帰ろっか」
周防桃子
錆びた海辺の街角に、小さく光る地平線。
周防桃子
桃子はこの景色を忘れない。
周防桃子
「必ず、帰ってくるからね」
中谷育
お世話になったね、ありがとう。
中谷育
お辞儀をして、さようなら。
中谷育
涙が出ないように空を見たら。
中谷育
夕焼けライトが照らしてた。
(台詞数: 50)