中谷育
「あったー!」
中谷育
ランドセルに入ってなかったから、ぜったい学校のつくえの中だと思ってた。やっぱりそのとおり!
中谷育
そのまま自分の席にすわって、ポシェットからかがみを取り出す。
中谷育
付けているヘアゴムを外して、さっき見つけたお気に入りに付けかえると……。
中谷育
「……えへへっ!」
中谷育
かがみにうつった自分を見て、ついついにやにやしちゃう。
中谷育
ちょんちょんとヘアゴムをさわっていると、時計が目に入る。あわてて席を立とうとしたら、
中谷育
こつん
中谷育
と、わたしの足がなにかをけった。
中谷育
冷たいゆかをコロコロと転がるそれをわたしはしゃがんで拾い上げる。
中谷育
白いチョークだった。
中谷育
だれかがふんでゆかがよごれたら大変だ。黒板に持っていく。
中谷育
チョークを置こうとした時、黒板にうっすらとお絵かきのあとがあるのに気付いた。
中谷育
これはお花かな?こっちはウサギさん。これはたぶん、クマさんかなぁ。
中谷育
つられてわたしもねこさんをかいてみる。ほら、にゃーんって。
中谷育
そういえば、前はみんなといっしょにこうやって放課後にお絵かきしたなぁ。
中谷育
みんなでおひめさまをかいて、でも、王子さまはいなくて、動物をいっぱいかいて、
中谷育
……
中谷育
わたしは一人ぼっちのねこさんを、そっと消した。
中谷育
ふり返れば、うす暗い教室にきそく正しくならんだ27個のつくえとイス。
中谷育
アイドルになる前は、放課後になるとここでみんなと遊んでた。
中谷育
お絵かきをして、おしゃべりをして、そういえばアイドルごっこもした。
中谷育
黒板消しがマイクの代わり。黒板にダンサーの動物さんを書いて歌っておどるのだ。
中谷育
もちろんステージは代わりばんこ。みんなでアイドルになって、ファンになって、
中谷育
歌って、踊って、拍手して、手を振って
中谷育
それで、
中谷育
それで、それで、
中谷育
……
中谷育
っ!!
中谷育
「いっくよー!『アニマル☆ステイション!』」
中谷育
黒板消しを持って、ステップを踏む。イントロなんて流れてこない。
中谷育
わたしはアイドルなんだ。いつだってさみしい顔はしちゃいけない。
中谷育
だれもいないステージだけど、ここだってわたしの大切なステージだった場所。
中谷育
静かでも、冷たくても、暗くても、わたしは歌っておどって……!!
中谷育
SAY HELLO!!
中谷育
……
中谷育
……私は客席に伸ばした手をおろして、黒板消しを置いた。
中谷育
そろそろ行かなきゃ。無理言って寄ってもらったんだもん。リハーサルがんばらないと、ね。
中谷育
目をこすって教室のドアに手をかけたとき、ポシェットの中のスマホがふるえた。
中谷育
なんだろうと思って画面を見る。
中谷育
……っ!
中谷育
わたしはスマホをポシェットに入れて走り出す。ろうかだってことも忘れてた。
中谷育
明日のライブはクラスのみんなが来てくれる!
中谷育
階段を1つ飛ばしで駆け下りる。
中谷育
わたしのバースデーライブに来てくれる!!
中谷育
シューズをくつにはきかえて、プロデューサーの車へかけこむ。
中谷育
「待たせてごめんなさい!さぁ、行こ!リハーサルだってばっちり決めてみせるよ」
中谷育
ふと、まどの外を見ると、植木のかげのねこさんと目があった。
中谷育
わたしが手をふると、ねこさんは大きなあくびをして走っていった。
中谷育
車が動き出す。きっと明日は最高のたんじょうびになるはずだ!
(台詞数: 50)